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なぜ野党議員のドキュメンタリー映画で「泣ける」という感想が多いのか

「政治ドキュメンタリー」から語る、日本の現在地 #2

キャラが立つ魅力的な物語が世論に効果を持ってしまう

大島 選挙の際にそれは顕著になるわけですよね。

石井 同僚の議員が、「政策を説明しても、なかなか有権者に理解してもらえない」とこぼしたら、小池さんに「政策なんて語ったって意味がない。そんなの受けないし、票にもつながらない。選挙はテレビよ。テレビにどれだけ出るかよ」と言われたそうです。でも、それはたぶん、日本の政治においては正解なんですよね。

大島 小池さんは意識的に自分からテレビ露出する人ですが、最近は視聴者を飽きさせないためにか、テレビ局の方から率先して政治家を物語化してしまう。この自民党総裁選をめぐるワイドショーなんか本当にひどかったですよね。特に菅さんの「苦労物語」。ホームページに掲載されている「すが義偉物語」に沿って「菅官房長官は実はこんな苦労人」みたいなことを各局が丁寧にやっているわけです。

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石井 どこの局も、まったく一緒でしたね。

大島 朝日新聞の「次期総裁にふさわしい人」世論調査では、6月の段階では石破さんがトップで31%、菅さんが3%だったんですって。それが9月の調査では菅さんがトップで38%、石破さんが25%。これも物語効果なのかもしれません。

石井 これまでの安倍さんは世襲議員で、しかも父方の安倍家、母方の岸家という家系を背負った「貴種伝説」的な物語が背景にあった。そこに真逆の、叩き上げ総裁候補が出現した。 何にしてもキャラが立つ魅力的な物語が世論に効果を持ってしまうのは避けられないことで、それをわかっているからこそ、小池さんの場合は「カイロ大学首席卒業」といった虚飾の物語を自ら作りあげていったのだと思います。

女帝 小池百合子』 文藝春秋

女性議員がメディアに取り上げられやすい理由

大島 メディアが物語を欲しているんですよね。でも思うんですが、これって菅さんの「苦労人」だけじゃなくて、女性議員全般にも言えることじゃないですか。つまり先進7カ国中、女性議員の比率は最低水準という日本の政治においては「女性」であることが物語化されやすいというか、別枠として存在価値を持たされている。

石井 女性議員のほうがメディアに取り上げられやすい、これも日本の後進性ゆえではないでしょうか。政界において女性は、まだまだ男性社会の添え物、飾り物のような立場に置かれていると思います。世界の眼もありますし、閣僚に女性を一人も入れないというのは許されない時代になって、男性のトップは数少ない女性議員の中から女性閣僚を選ぶ。女の人たちも変なところで競ってしまうというか、中には女性性を前面に押し出すような人も出てくる。永田町の女性に会うと、何というか、過剰な感じがあって。周りの空気がそうさせてしまっているんだと思います。

大島 そして、ボスの考えていることを、さらに過激化するところも見られませんか。安倍時代で言うと杉田水脈さん、稲田朋美さん……。

石井 安倍政権下では、みんな安倍さん以上に安倍さん化していましたよね。気に入られたりという一心で、そうなってしまうのか。発言がひどく過激になったり。

大島 そこには、いかにテレビ映えするかという力学も働いているんでしょう。