このような沖縄タイムスの積極的な報道姿勢にもかかわらず、今までのところこの税理士が不正受給に主導的にかかわっていた証拠は出てきておらず、逮捕されるにも至っていない。その一方で、同社の社員が警察の捜査の対象となってしまうという皮肉な事態となったのだ。
なぜ、沖縄タイムス社員に捜査の手が及んだのか?
「県警がくだんの税理士事務所から押収した資料の中から、沖縄タイムスの総務局付課長で関連会社に出向中だった40代男性社員Mの申請書類が出てきたんです。警察による捜査の手が及びつつあることを知った男性社員は、9月11日に警察に出頭し、事情聴取を受けていたようです」(県警担当記者)
こうした事態を受け、沖縄タイムス社は、9月12日夜に記者会見を開き、Mが持続化給付金100万円を不正受給したことに加え、新型コロナ対策の緊急小口資金と総合支援資金も虚偽申請して計80万円を不正に借り入れていたことも明らかにした。
不正受給を追及すべき報道機関の現役社員が不正受給に手を染めていたこの一件は、瞬く間に全国ニュースとなった。
とくに、日ごろから沖縄タイムス社を「反日メディア」として目の敵にしていた保守勢力を中心に、同社社員の不祥事に大きく反応。実名を公開しない同社に「身内には甘い」といった批判の声も巻き起こった。
しかし、イデオロギーのいかんは問題の本質には関係なさそうだ。取材を進めると、このMのさらに驚愕すべき正体が浮かび上がってきたのだ。
Mは、自らの不正受給だけでなく、社内外の15人前後にも申請の勧誘をしていたことが明らかになっている。これにより、同じ出向先所属の30代男性社員も職業を偽って申請し、緊急小口資金20万円の借り入れを受けていたことが確認されている。
県警は、こうして不正受給を誘われた人物がさらに別の人物に話を持ち掛けて、結果的にMが約40人を不正行為に巻き込んだ可能性があるとみて、調べを進めている。
Mは「仲介料や紹介料は受け取っていない」と主張しているが、いち会社員を頂点とした、まるでマルチ商法のような勧誘の構図はなぜ可能だったのか。