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村長の父親の銅像の前で祭りを…日本の“住みよい北朝鮮”は「ある意味正しい」と村民が語る理由

『地方選』著者・常井健一インタビュー #1

2020/10/02
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――町村選は短期決戦、そのあいだに外から入り込んで取材するのは大変では? 

常井 現場に溶け込むのは、あらゆる取材の基本です。国会を取材するのであれば、まわりに合わせてスーツ姿でないといけませんが、田舎でみんなに合わせると普段着になります。スーツ姿でいるひとなんて銀行員やセールスマンくらいで、学校の先生はジャージ、役場の職員でも作業着だったりしますから。 

 だから今日のように野球帽をわざとかぶるとか、パリッとしたワイシャツよりもくたびれたTシャツを着るとか、メガネは外してコンタクトレンズを使うとか。レンタカーも、あえて軽自動車を選びます。あと、私の場合、茨城の田舎の出身なので、わざと茨城弁をしゃべりますね。

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 いかにも「東京からきた記者」の雰囲気を出すと、妙に構えられてしまって、気さくに話してくれない。田舎町のパチンコ屋にいそうな「おっさん」になって、その土地に溶け込む工夫をいつもしています。 

――なるほど。「選挙の民俗学」を書く秘訣は服装にあるんですね。 

常井 あ、でも、今日のような花柄は着て行きませんよ。なぜか、家を出る時にこれを選んでしまった(笑)。いちばんその場に溶け込める全国共通の最強アイテムは、「ジャージ」なんですけれども。 

ジャージ姿で有権者と握手をする、佐賀県上峰町長選候補者(当時)の武広勇平氏(常井健一氏提供)

短期決戦の村長選で出会う「プロ」たち

――それでも追い出されたりしますよね(笑)。本の中でも、取材拒否される場面が出てきました。 

常井 選挙事務所は、いろいろなムラの秘め事を抱えているものです。だから突然の訪問者には、それをさぐられないようにしつつ、やんわりとあしらわないといけない。そこは各陣営でも技術と知恵を要するところです。

 選挙に慣れていないひとだと、変に構えてしまったり、「出ていってください」と言ってしまったりする。すると「ここは選挙のプロが少ない陣営だな」、「お金か、マンパワーか、人間関係か、なんらかの『無理』を抱えた陣営だな」とすぐにわかります。 

 知らないひとにも票をいれてもらうのが選挙です。選挙事務所に関係のないひとが来たとき、そういう対応をしてしまうところは負ける確率が高い。それでも勝ててしまう場合には、なにか問題を抱えている「不正の温床」とうがって見ても、あながち外れではなかったりします。 

――逆に、常井さんが相手の作り笑顔からその道の「プロ」と見抜く場面が第7章で出てきました。 

常井 「ふるさと納税」の豪華返礼品で一躍有名になった佐賀の上峰町の取材のときですね。私が「ノンフィクションライター」と書かれた名刺を受付で渡したら、あるスタッフがニターッとした作り笑顔を絶やさずに私の相手をするんです。

 この陣営の選挙は、保守の地盤でありながら、民主党公認で何度も当選してきた衆院議員の原口一博さんのスタッフが仕切っているので、国政も県政も町の選挙もできる熟練したプロばかりの集団だったんです。 

 選挙のプロは、ひとのあしらい方を知っているものです。