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「このウグイス嬢、只者ではない」

――選挙のプロというと「凄腕のウグイス嬢」が愛媛県松野町の選挙に現れます。

常井 「町議会のドン」と呼ばれる大物政治家が町長選に出て、最終日だけ「凄腕のウグイス嬢」を車で3時間も離れた松山市からわざわざ迎えて、町内の名門旅館に前泊させて、1日だけ雇うんですね。私もびっくりしたのですが、同じ場所で聞いても、声質も、出てくるフレーズも、配慮も、他のウグイス嬢とはぜんぜん違います。 

凄腕のウグイス嬢を呼び寄せた、松野町町議会の「ドン」(常井健一氏提供)

――配慮といいますと? 

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常井 たとえば、選挙カー同士が狭い道ですれ違うときは、だいたい全国どこでも、エール交換をします。このエールをとっさに言えるのが、プロ中のプロのウグイス嬢なんです。こういうときに黙っていたり、意固地になって自分のところの候補者の名前を連呼し始めたりするのは、政治の世界では失礼にあたるわけです。 

 町中にその声が響きわたるので、有権者には「あの陣営は、相手の陣営を丁寧に気づかってやっている」などと、配慮ができるかできないかが、わかるわけです。それによって候補者のイメージも変わっていきます。

――ウグイス嬢というと、選挙になると名前の連呼がうるさいとよく言われます。

常井 ただ名前の連呼には効果があるんです。『無敗の男』で書いた中村喜四郎は、毎週末の土日、一日10時間も自分でマイクをもって街宣車を走らせている。それを40年近く続けてきました。

「中村喜四郎がきた うるせえ」とツイートされたりするのですが、うるさいんだけども名前の印象づけはちゃんとされるわけです。中村喜四郎が来る時間帯は毎週同じなので、たとえば、「あれは、日曜朝10時の時報のようなもんだと思っている」と言う住民もいるくらいです。 

 だからウグイス嬢の連呼は、候補者の名前を覚えさせたり投票所で想起させたりするための効果があるというのは、選挙のプロのあいだでは定説になっていて、連呼はうるさいといわれてもやるというのが選挙の鉄則なんです。 

――作り笑顔やウグイス嬢のほかにも、選挙の熟練の度合いがわかるものはありますか?

常井 事務所の「為書き」(政治家からの応援メッセージのビラ)は、誰からのものをどこにするかなど、順番をものすごく考えて貼られています。ところが、来たものから貼っているような事務所もある。

選挙事務所の「為書き」(常井健一氏提供)

『地方選』で書いた大間町の町長選での話ですが、神棚に供えてある果物やお菓子が毎日替えられているところと、ずっと置きっぱなしで傷んでいるところとがある。こうしたところに、スタッフの気づかいの差が出てきます。 

 選挙は、気づかいの芸術です。それが行き届いているところは、やはり選挙に強いですよ。