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「みんな狂うんだよ、金に」 福島のヤクザが「墓でがっつり」を狙ったワケ

『ヤクザと原発 福島第一潜入記』#2

2020/10/04

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 読書, 経済, マネー

墓の移転でがっつり

 元ヤクザが続ける。

「原発が来るとなぜヤクザが儲かるか。うるせぇヤツを一発で黙らせるからに決まってるだろ。いまは無理だよ。すぐパクられる。ヤクザ使って恐喝できたら、当人たちもラクなんだろうけど、それできないから自分たちの若い衆を働きにだすわけ。

 福島はまず土地で儲かったと聞いている。どこもそうだろ。あんだけ広い敷地だ。田舎とはいえ、誰も住んでない、ってことはない。内心熱烈原発大歓迎でも、地主がヘソ曲げたら原発誘致は頓挫する。電力会社の弱味につけ込むのさ。ただ山や野原、農地なんていくら買い占めてもたいした金にはなんねぇ。資産としての価値はほとんどねぇな。じゃあどこを狙うか。墓だよ。お墓。

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(写真はイメージです)©️iStock.com

 都会と違ってこのへんの集落にはどこも先祖代々の墓がある。福島はとくにそれが多かったようだ。農地や住宅地なら相場があるけど、普通、墓なんて滅多に移動しないだろ。田舎ならなおさら。いってみりゃプライスレスだ。

 ダチや親戚、地縁血縁を総出で……といっても寺の住職も昔からの知り合いなんだけど、ある程度の金握らせて、一括して交渉する。これが儲かる。墓の値段なんてほぼ言い値だからな。

 1Fの時……ある集落は近隣の海側が移動場所だったね。ただ東電が集落に3年以上住民票がないと駄目とか言い出して、俺たちがなんとかしてやった家がけっこうある。みんな大喜びしてたよ。まぁ、がっつり抜いてるんだけど、たったひとつ墓があるだけで、大金が入ってくるんだから。

 当時、いまみたいに暴力団なんて言葉はなかったし、俠客なんていったらおおげさだけど、貧乏人のリーダーみたいなもんだったから、悪いなんて感覚はヤクザにもねぇし、街や村の人間にもない。盆暮正月は無礼講で、堂々と博奕をやってた。年寄りも来るし、役場の人間も来たし、警察だって遊びにきた。学校の先生が手が付けられない不良を連れてきて『礼儀作法を教えてやってくれ』なんて、いまじゃあ考えられねぇこともあったよ。

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 墓の話? ああ、移転する場所もヤクザが裏でからんでることが多いね。売る側と買う側、2つから金を抜く。俺なんて、親分や兄貴分からがっつり小遣いもらってたんで、いまでも墓参りに行くたび、墓石が札束に見える。困ったもんだ。こういうとき、原発は都合がいい。さっさと工事したいんで、ごたごたしないで話が進むからな。いったん建設が決まると、その土地には空から金が降ってくるような状態になってしまう。みんな狂うんだよ、金に」