暗黙の了解
その後も原発は暴力団……正確にいうならヤクザと一心同体だった地域共同体に金を落とし続けた。電源三法交付金や発電所が支払う固定資産税をはじめ、原発運営、維持管理……地元に落ちる巨額の金を抜け目ない連中が懐に入れる。バブル期は作業員一人につき、月額100万円が支給されたという。それぞれに40万の月給を払っても、60万が仲介した暴力団の懐に落ちる。
「駆け出しのヤクザでも10人集めれば月に600万円だ。ベンツだろうがロールス・ロイスだろうが乗り放題だ。バブルがはじけて、単価が下がってくっと、適当にやってた人夫出しの会社がばたばた倒産したけどね。真面目なヤクザなんてそういねぇから。
それでもヤクザを大事にしてくれる人種……ヤクザ大好きな社長ってのが必ずいて、助けてくれたんだ。ヤクザとかカタギとか、そんな線引き、当時の原発にはなかったね。いまはさすがにうるさくなって、それなりの対策はとってるだろうけど、この狭い街で、昔からの付き合いをすっぱり切るなんて、簡単なことじゃない。警察が叩けば叩くほど見えなくなるだけで、郷土愛で結ばれた仲間意識は消せない。
なにか不祥事があり、それが新聞沙汰になっても、東電が怖いのは世論の批判だけ。どの協力企業も、一度や二度、そういった不始末を起こし、名前を変えて再出発しているし、元請けだってそれは分かっている。実質、ヤクザの会社であっても、兄弟や親戚を社長にすればいいだけだ。狭い田舎なんだから、隠そうたって無理な話で、それは暗黙の了解だ。もともとみんな仲間内なんだから。親戚や友達、先輩後輩……地域が全部グルと思っていい」
暗黙の了解……その後も原発取材で嫌というほど聞かされた言葉である。暴力団でも企業であっても、さも当たり前のようにこのフレーズを繰り返す。暴力団にとって、原発のようにダブルスタンダードと隠蔽体質の上に成り立つ産業は、最高のユートピアかもしれない。事実、原発を運営する電力会社は、警察に尻を叩かれ、ようやく暴力団排除に重い腰を上げたばかりだ。