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ネガティブな思考から脱却し、良い循環を作るためには

 藤井氏は「だからこそ芸能人には日ごろからのメンタルケアが重要」と訴える。

「私は現在、複数の芸能事務所と契約しカウンセリングを担当していますが、業界にはまだ『所属タレントの精神状態なんてリスクのある情報を外部に出したくない』という事務所も多い。精神的孤独の芽が小さいうちに取り除くことを意識しないと、取り返しのつかないことになってしまうこともあります。

©文藝春秋

 例えばAさんのように不当に自己評価が低い人に対しては、認知再構成法という手法が有効です。『必要とされていない』『演技が下手』という人に対して、『じゃあなぜ仕事が来るんだろうね』と問いかけ、現実を正しく認識する練習を繰り返すんです。すると、自分自身への見方が変わってきて、ネガティブな思考から脱却することができるようになっていきます。性格は変えられないことが多いですが、認知は変えられますから。

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 あとは仕事の時間を決めること。この時間に台本を覚えて、この時間になったら家に帰りましょうというようなことを具体的に決めていく。当たり前のことのようですが、追い詰められている人は生活の中での時間的戦略がなかなか立てられないものなんです。時間を構造化して取り組んでも、パフォーマンスが落ちないことを実感できれば良い循環になっていきます」

「誰かに『助けて』って言うこと、それも勇気」

 現在、Aさんの精神状態は回復してきているという。

「Aさんは、落ち込んでも『この精神状態は役柄に引っ張られているのではないか』『仕事への批判を存在否定のように受け取ってはいないか』ということを分析できるようになっています。また、仕事とプライベートを時間で区切れるようにもなりました。今はかなり落ち着いていらっしゃいますよ。

 自分の苦しみを客観的に見つめることで、周囲の人に助けを求めやすくなったこともよかったですね。事務所やマネジャーにもカウンセリング内容を差し障りのない範囲で共有しているのですが、そうすることで周囲もAさんの悩みを理解し、サポートしやすくなってきたようです。“人薬(ひとぐすり)”という言葉がありますが、人を癒すのはやはり人ですから」

 三浦さんは2020年4月7日に「めざましテレビ」(フジテレビ系)に出演した際、20代へのアドバイスとしてこんなメッセージを送っている。

《誰かに「助けて」って言うこと、それも勇気》

©文藝春秋

 藤井氏は「相談ダイヤルでも周りの信頼できる誰かでもいいので、まずは1人、できれば3人、自分の気持ちを打ち明けてみてください。『自分の気持ちなんて話せない』という方も多いと思います。でも一歩でも踏み出せば、確実に自分自身の心が楽になるはずです」と話す。

 「精神的孤独」はあくまで一時的な状態でもあり、治療が可能なのだ。

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【悩みを抱えた時の相談窓口】

「日本いのちの電話」
▽ナビダイヤル「0570-783-556」午前10時~午後10時
▽フリーダイヤル「0120-783-556」毎日:午後4時~午後9時、毎月10日:午前8時~翌日午前8時