昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

第五のがん治療「光免疫療法」が世界に先駆けて日本で実用化された理由

楽天メディカルが厚生労働省の承認を取得した

2020/09/30

 手術、抗がん剤、放射線、免疫治療薬に続く「第五のがん治療」と言われる「光免疫療法」が世界に先駆け、日本で実用化される。楽天の子会社、楽天メディカルジャパンは9月25日、厚生労働省の承認を取得。29日に都内で記者会見した楽天の三木谷浩史会長兼社長は、「(今回、承認を取得した頭頸部がん以外のがんにも)対象を広げていきたい」と語った。

光を当てることでがん細胞だけを壊死させる

 承認を受けたのは、楽天メディカルジャパンが開発した医薬品「アキャルックス」。「切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部がん」を効能・効果として、厚労省から製造販売承認を取得した。同剤との組み合わせで使う医療機器レーザー装置の「バイオブレードレーザシステム」は9月2日に承認を取得している。

 光免疫療法とは、特殊な化学物質をがん細胞に集積させ、その物質に光を当てることでがん細胞だけを壊死させる、まったく新しい治療法だ。

楽天の三木谷浩史会長兼社長 ©大西康之

 楽天メディカルは「光免疫療法」を使ったこの治療法を「イルミノックス・プラットフォーム」と名付けた。第1弾として承認を得た「アキャルックス」は、モノクロルーナ抗体の一種で、頭頸部がんのがん細胞の表面上に高いレベルで発現するタンパク質「ヒト上皮細胞成長因子受容体(EGFR)」に選択的に結合する。

 EGFRに結合したアキャルックスに光を照射するとがん細胞の表面に傷がついてそこから水が入り、膨張したのちに破裂して壊死してしまう。光免疫療法の発明者である米国立がん研究所(NCI)の研究員、小林久隆氏は29日の記者会見で特別講演し、従来のがん治療との違いをこう説明した。

「がん腫瘍はがん細胞とがんを助ける細胞(悪玉)と、がんと闘う細胞(善玉)のミックスチャー。既存の三大治療法(手術、抗がん剤、放射線)はその一切合切を取り除くやり方で、がんと闘う細胞まで痛めつけてしまう。光免疫療法は体の毒にならない化学物質を使って、がん細胞だけを狙い撃ちにする。攻撃と防御を両方行える治療法だ」

「これはいける」直感から個人で数百億円を投じた

 狙撃手のように悪玉細胞だけをやっつけるのがミソ。善玉細胞を残すので患者の体への負担が少なく、治療後のQOL(生活の質)が低下しにくい。

 楽天が「がん治療」に進出したきっかけは、8年前に三木谷氏の父親で経済学者の三木谷良一氏がすい臓がんを患ったことにある。父親を救いたい一心で最先端の治療法を探す中で、小林氏に巡り合った。

©iStock.com

「これはいける」

 直感的にそう思った三木谷氏は、アスピリアン・セラピューティックス(現楽天メディカルジャパン)に個人として出資。この会社が、小林氏が所属していた米国立衛生研究所(NIH)から、光免疫療法に関する開発・商業化の独占的ライセンスを取得した。

 良一氏は2013年11月に亡くなったが、「アントレプレナーの最大の使命はフィランソロフィ(社会貢献)」と考える三木谷氏は個人で数百億円を投じ、光免疫療法の商業化を後押しした。資金を提供するだけでなく、楽天メディカルジャパンの会長に就任し同社の経営にも深く参画した。どんな画期的な治療法でも「早く患者に届けなければ意味がない」と考えたからだ。