9月14日、文化通信社の『出版物の総額表示 スリップは「引き続き有効」 財務省主税局が説明』という記事において、「2021年3月31日に消費税額を含めた総額表示の義務免除が終了となる際に、出版物も表示義務が課されることがほぼ確定した」と報じられると、SNSを中心に大きな波紋が広がった。

 現状で市場流通している書籍は、本体価格+税という形でカバーや書籍スリップに価格表記されている場合がほとんどである。

 これに対し、総額表示、つまり税込価格での表示義務化が施行されれば、カバー・スリップの刷り直し等で出版社が大きな負荷を負うことになるのではないか、経費面等の問題で刷り直しが不可能であるために、絶版になってしまう本が多発するのではないか……といった動揺の声が次々に上がったのだ。

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 Twitterでは「#出版物の総額表示義務化に反対します」というハッシュタグも生まれ、出版業界内外から、義務化反対の意見が多く示されることとなった。

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業界関係者の多くが状況を把握していなかった

 ところで、この総額表示義務の問題、書籍に関心がある、もしくは書籍に関わる商売を生業にしている人間の果たしてどれだけが、これまでの経緯について理解していただろうか? 私は10年近く書籍小売の商売に従事しているが、情けないことにこれまでの状況をほとんど把握していなかった。

 私がそれを知らなかったことは単なる自分の勉強不足でしかないのだが、書店や出版社、その他関連事業の人間でこの問題について知識のなかった人は少なくないと思う。周囲の業界関係者と話してみた個人的な体感としても、Twitterの状況を見た感覚としても、そのことは割とリアルな実感としてある。

 もちろん以前からこの問題についてきちんと学び、対処のために動いていた方も多くいると思うのだが、それは広い意味での出版業界のなかで共有されたあり方ではなかったように思う。

 この状況は、問題点や課題を広く共有し、コンセンサスをつくっていこうとする志向が、出版という世界のなかで衰弱していることの象徴であるとは言えないだろうか? そして私自身も、そういう状況をつくってしまった人間のうちのひとりだ。