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ハッシュタグ運動を「何を今更」で片づけていいのか

 こういった問題についてただ一時的に騒いで終わり、では確かにまずい。ただ、騒ぎを通して状況に対して意識的になる人間が増えていくことは、やはり悪いことではないと思う。

 先述した山田太郎のYouTube動画において、出演者の萌生めぐみが、アルバイトも含め、働いている人たちに法律のことも含めた知識を、業務において上の立場に立っている人間が渡していくことも必要なのかと思う、という主旨の発言をしているが、これは実際その通りだ。

 業界のなかで仕事をするあらゆる人々に対して知識や情報が行き渡るような体制を、出版業界はつくれていない。主要な役職についている人間だけが詳しい情報や事情を把握しておけばいいのだ、という感覚は、業界内に間違いなくあると思う。

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 総額表示の問題について既に知識を持っていた人は、この段階でハッシュタグ・ムーブメントが起きていることに対して、「何を今更騒いでいるのか」「よく調べずに感情的に反応しているだけ」としか思えなかったかもしれない。

 だが、これまでに実際のところやれていなかった、業界内での広いコンセンサスづくりに繋がっていく可能性が、今回のような流れのなかにはやはりあると思うのだ。そこで生まれる波を未来に繋げていくために、持っている知識を広く共有していくことが必要なのではないか。

©iStock.com

 そして同時に、いま現在初めてこの問題について知り、ハッシュタグ・ムーブメントに身を投じた人々も、現状に甘んじずに学び続ける努力に向かう必要があるだろう。これまでに問題について意識的に取り組んでいた人々に学び、自分の関心を一瞬のSNS消費に終わらせないようにすることが大切だ。ネット上での活動だけでなく、小さな現場でコツコツと学んだり行動したりすることも重要である。

 どんな立場の人も互いに意見を交わし合い学び合い、合意形成を図ることこそが、社会を護り育てる。出版という世界においても、本というメディアが抱える/遭遇する諸々の問題についてコンセンサスを作り上げるための体力の回復、リハビリテーションが必要な状況なのではないかと、私は思う。