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書店からチンギスハーンや、モンゴル帝国に関する本が消えた

――町のなかから、モンゴル語の看板が撤去されているという話も聞きました。

 ご指摘の通りです。モンゴル人の民俗学会や作家連盟も活動停止を命じられ、集まることはおろか、連絡を取り合うことすら許されない。ウィーチャット(中国のメッセージアプリ)で、複数人のやり取りも禁じられてしまっている。

 私がよく通っていたフフホト(内モンゴル自治区の省都)の書店からは、チンギスハーンや、モンゴル帝国に関する本が消えてしまった。モンゴル語の本だけでなく、中国語で書かれたものまで店頭にはありません。その上、チンギスハーンは漢民族だった、というとんでもない説も出てきている(苦笑)。

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――歴史の改ざんですね。

 今回の中国政府の政策を民族問題だと語ったのは、まさにそこなんです。

 スターリンは、民族を次のように定義しました。民族とは、共通の地域、経済、文化、心理、そして言語を持つ人たちによって、歴史的に構成された共同体である、と。

 内モンゴルでは、モンゴル人にとっての共通の地域、経済や文化はすでに破壊されてしまっている。

内モンゴルの風景 2016年撮影 ©️Toru Yamakawa

 ご存じのように、モンゴル人は伝統的に家畜とともに草原で生きてきました。食性が異なる5種類の家畜(羊、ヤギ、牛、馬、ラクダ)を放牧し、季節ごとに生え替わる草を求めて年に数度、移動する。それは自然や動物を大切にする歴史的に培った文化であり、草原の再生力を活用した経済活動でもあったのです。

遊牧民は食性が異なる5種類の家畜を放牧し生活する 2016年撮影 ©️Toru Yamakawa

 しかし1990年代から中国政府は「発展」「近代化」「文化的な生活」というスローガンを掲げ、草原に井戸を掘り、風力発電やソーラーパネルを設置し、遊牧民たちに定住や農耕を強いてきた。中国政府の論理では、野蛮な遊牧をやめて、文化的な漢民族と同化させてあげようということなのでしょう。結果として、中国政府はモンゴル人のアイデンティティであった地域、経済、文化を奪うことに成功した。

内モンゴル住民の住むゲル 2016年撮影 ©️Toru Yamakawa

 遊牧民たちが定住すると何が起こるか。

 家畜は限られたエリアの草を食べるしかないから、草原が荒れてしまう。さらに草原に鍬を入れ、畑をつくることを推奨した影響で、砂漠がどんどん広がっていった。その上、中国政府は、いまもレアメタルや資源などの開発を続け、モンゴル文化の基盤である草原を破壊し続けている。

 そして最後、私たちに残されたのが、言語と文字です。地域、経済、文化を奪われた内モンゴルの人々にとって、言語と文字が、民族としての最後のシンボルといってもいいでしょう。モンゴル語教育の維持……それこそが、決して越えさせてはならない最後の一線だったのです。