中国北部の内モンゴル自治区で、9月から小中学校の授業で使う言語をモンゴル語から標準中国語に変更するなど、住民にモンゴル語教育を行わせない政策が推し進められている。中国政府による強硬な「同化政策」に対して、モンゴル族住民が反発し、抗議デモや授業のボイコットが相次いでいるという。
当局が参加者の拘束などの弾圧を強めているとの報もあるが、果たしていま内モンゴル自治区では何が起こっているのか――。自身も中国・内モンゴル自治区出身で、静岡大学アジア研究センター長を務める楊海英教授に話を聞いた。(全2回の1回目。2回目を読む)
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これは中国語教育の強化ではなく“ジェノサイド”
――中国政府は、9月から中国北部の内モンゴル自治区で、モンゴル語教育を禁止しました。東京では、9月12日に、在日モンゴル人を中心に1000人を越えるデモが行われ、全世界に抗議運動が広がっています。いま、内モンゴル自治区で、何が起きているのでしょうか。
はじめに知っていただきたいことがあります。いま、内モンゴルで起きているのは、教育問題でも、言語問題でもありません。民族問題……いえ、少数民族であるモンゴル人へのジェノサイドにつながる問題なんです。
――日本のメディアでは「モンゴル語教育禁止」と取り上げていますが、それが間違いだ、と。
その通りです。
当初、日本のメディアは「モンゴル語教育禁止」と表現していました。ただし最近では、中国政府に配慮したのか、「中国語教育の強化」という言葉を使いはじめました。
内モンゴル自治区に暮らすモンゴル人は、小学生になるとモンゴル人学校で、「国語」を含めたすべての授業をモンゴル語で受けます。しかし9月から「国語」が中国語になり、今後「道徳」や「歴史」も中国語に順次、切り替わることが決まった。確かに「中国語教育の強化」ではあるのですが、現実はモンゴル人からモンゴル語を奪う政策なんです。
国際的な人権問題に発展している新疆ウイグル自治区では、ウイグル人たちが職業訓練所や再教育施設という名の「強制収容所」に入れられている。子どもの隔離や、女性の強制不妊も行われています。これらは、すべて国連のジェノサイド条約で禁止されている行為です。新疆ウイグル自治区でも、2018年頃からウイグル語やモンゴル語が使えなくなりました。
内モンゴルでは、まず言語を奪う政策をスタートさせた。「中国語教育の強化」という生やさしい話ではなく、ジェノサイドの第一段階、あるいは文化的なジェノサイドと位置づけるべきなのです。