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「中国人が消えることはない」 歌舞伎町と中国マフィアの切れない関係

『歌舞伎町・ヤバさの真相』より #2

2020/10/12

source : 文春新書

genre : ニュース, 社会, ライフスタイル, 歴史

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パリジェンヌ事件の背景

 女性経営者は日本の警察に知り合いがいたから、警視庁深川署に被害届を出した。警察は話し合いの場になる喫茶店に盗聴器を仕掛け、店内に私服の警察官を配置した。Kの一派は4人でやってきた。1人が「今1000万円を出さないと娘を誘拐する」と、また脅し言葉を吐いた。女性経営者が「殺されてもカネは払わない」と答えたとき、警察官がいきなり一派に襲いかかり、その場で2人を逮捕した。

 Kはこれで怯え、「悪かった。賠償金200万円を払うから被害届を取り下げてくれないか」と女性経営者に泣きついた。彼女は警察にも相談して被害届を取り下げ、Kと示談にした。だが、Kの恐喝未遂は消えず、裁判で懲役2年6ヵ月、執行猶予3年の判決が出た。2003年11月満3年がたつはずだったが、その前にKは別の事件で逮捕され、執行猶予は取り消された。

 エステ店の女性経営者は、これで当分の間、Kはシャバに戻れないと喜んでいる。出所後、Kは中国に強制送還され、再入国するにしろ、歌舞伎町人生は終わるにちがいない。

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 だが、こうした中国人同士のもめ事を見聞きするにつけ、歌舞伎町では、豊かであるはずの日本人が想像さえできないほどの巨額が中国人の間で飛び交っていることが分かる。カネに狂奔する中国人は同胞相はむカネの争奪戦を演じて、ときに中国人、日本人を問わず誘拐し、殺す。

 2002年9月、歌舞伎町風林会館1階の「パリジェンヌ」で中国人マフィアが住吉会系幸平一家の幹部組員2人を拳銃で殺傷する事件が起きた。警視庁は事件で共犯の8人を逮捕したが、うち5人が吉林省の出身だった。前記の東北幇と見ている。

 銃撃の実行犯で主犯格の男は黒竜江省出身で、日本名を村上と名乗る金石(40)だが、事件後、中国に逃げ、03年3月、マカオに入ろうとして、中国の捜査当局が身柄を拘束、黒竜江省に移送した。

 事件の概要は公表されていないが、警視庁に逮捕された銃撃犯の一員、金在宇(38)の論告求刑によれば、金石がリーダーである強・窃盗専門の中国人犯罪グループが住吉会系幸平一家と揉め事を起こし、パリジェンヌで両者の話し合いが持たれた。話し合いの前、金石は「日本のヤクザは俺たちからカネを取るつもりだ。カネを渡したら、歌舞伎町での俺のメンツがつぶれる。今日はみんなに集まってもらい、ピストルを持って奴らと戦う。俺が一発撃ったら、みんな撃て」などと仲間に指示していた。犯行に使用した拳銃はマカロフで、殺傷力が高い中国軍の制式拳銃だった。中国人グループは店内に七名の一般客がいたにもかかわらず、銃を乱射した。この強・窃盗グループは羽振りがよく、他の不法滞在者から羨ましがられる存在だったという。