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韓国民主抗争の時代 僕は聖子の曲を書いていた

——韓ドラのどういった部分に惹かれましたか?

松本 いちばんは、日本にはない視点。それが新しかった。だいたい僕らは、韓国の歴史をほとんど知らない。隣の国でどんなことが起こっていたのか、80年代の民主化運動のこととか、みんな知らずに育ってて。僕もそう。僕の80年代といえば、松田聖子や薬師丸ひろ子の歌をつくったりしていたけれど、その頃、韓国では民主化運動が巻き起こっていたんだ。

 光州事件を描いたソン・ガンホ主演の『タクシー運転手』が最近話題になったけれど、あの映画を観たときに、ああ、僕はこの頃、「スニーカーぶる~す」や「ルビーの指環」を書いていたんだよなあって。あんなに激しい争いがあったことも知らずに。

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薬師丸ひろ子「Woman」を感じたキム・ヘス ©YONHAP NEWS/アフロ

——88年にソウル五輪が開催されましたけれども、その直前まで民主抗争で国内が揺れていたんですよね。

松本 『砂時計』(※5)という、韓国では名作と言われるドラマがあるんだけど、それも光州事件の話なんだ。僕が好きな、イ・チャンドン監督の映画『ペパーミント・キャンディー』もそうで、光州事件で壊れちゃった男の話。あの事件を日本で例えて説明するなら、名古屋が反乱を起こして独立宣言して、自衛隊がそれを包囲し、市民に銃を向けるような話だからね。

——壮絶な出来事でした。

松本 そんな重大な事件が起きているのに、隣の国の僕たちは何も知らなかった。当時、テレビや新聞は伝えたかもしれない。でも、扱いは極めて小さいものだったと思う。だから、そういった歴史を背負った韓国の映画やドラマを新鮮に感じたんだと思う。

 ちなみに、『砂時計』を教えてくれたのは川原伸司君。聖子の曲「瑠璃色の地球」の作曲者。

——へえーっ! 川原さんも韓ドラファンですか?

松本 昔からそう。「韓ドラが好きなら『砂時計』を観なきゃ」と言ったんだ。で、観てみたら面白い。特に主役がすごい。日本でいえば三船敏郎のような……。

 ——チェ・ミンスですか?

松本 そう、チェ・ミンス。あと、ヒロインのコ・ヒョンジョン。コ・ヒョンジョンは、人気絶頂期にパッと引退して財閥の人と結婚して、それで離婚して、また復活した。面白い女優さんなんだよね。

——意外と韓国芸能事情にも詳しい松本隆(笑)。