「会社あっての労働者だ」と言わんばかりの回答

 それでも会社からは何の返事もありません。ゼロ回答が続くばかりだったのです。

 そんなある日、突然、エリアマネージャーから「Aさんの言動が原因で一部の配達員の方とトラブルになっている」と告げられ、異動が言い渡されたのです。

 完全に青天の霹靂でした。というのも、私にはまったく事情聴取のようなことがなかったからです。

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 あれだけ私が労働状況の改善に声を上げても耳を貸してくれず、「トラブルがあった」と一方的に言うばかりで私の話を聞こうともしてくれない会社……。日々の労働で追い込まれていた気持ちの糸が、ぷつんと切れたような気がしました。

©文藝春秋

 私としては、いきなり「あなたの言動が問題を起こした」と告げられただけですから、せめて私の意見も聞いて欲しい。そう思って、労働組合に問い合わせたこともありましたが、「本社に問い合わせましたが、現在対応中ですという回答を得ました。労組としてはこれ以降の取り組みはしません」という返答があるばかり。

 ワタミ労組の中央執行委員長に電話で相談すると、「お答えできない」「何もできない」「(タイムカードを改ざんした)エリアマネージャーも組合員の一人で、多くの方が関わるから、会社と(歩調を)合わせないといけない」「会社寄りと言われるかもしれないが、ワタミ労組は会社とスタンスが同じと捉えてもらって問題ない」と、にべもなく対応を拒否されてしまいました。

 さらに、ワタミ労組が加盟しているUAゼンセンに問い合わせた際に至っては、〈組合員の雇用と生活は会社あってのものであり、会社の成長(生産性向上)に協力する事で雇用の安定と労働条件の改善がかなうことを重視〉するのが自分たちの立場であるとメールがありました。「会社あっての労働者だ」と言わんばかりの回答に唖然としました。会社の対応に加えて、二重に裏切られた気がしました。

「あ、組合費を払い続けてきたけど、彼らは困ったときに味方になってくれないんだな」と、“外”の人に助けを求めることに決めたのです。

これまでの“無回答”ぶりが嘘のように

――会社の対応が変わったのはいつからでしょうか。

Aさん 実際に風向きが変わったのは、9月28日に、労働基準監督署から是正勧告を受けたことを取り上げた今野晴貴さんの記事(「ホワイト企業」宣伝のワタミで月175時間の残業 残業代未払いで労基署から是正勧告)が公開されてからです。

 即日、ワタミは公式ホームページに「謝罪文」を公開しました。私のもとにも、現社長の清水邦晃氏から直筆の謝罪文が速達で送られ、連日に渡って対応がとられるようになりました。

 また、UAゼンセンやワタミの労働組合からも、これまでの“無回答”ぶりが嘘のような対応がとられるようになりました。

携帯に届いた実際のやりとり ©文藝春秋

 たとえば、ワタミの労組の担当者から夜の8時頃に突然電話がかかってきて、「家から30分くらいのところにいるので、いまから会えないか」というのです。用件を聞いても要領を得ず、しまいには「あなたの体調が悪いようであれば、ご家族の方と話し合いたい」と、私の家族まで巻き込むようなことをいわれました。

 あれだけほったらかされたのが嘘のように、こうした連絡が毎日のように何度も続いています。

 ただ、ワタミ労組を通じて自分が具体的に何ができるかを知りたいと思い、労働組合の規約やユニオンショップ協定などを見たいと労組に求めたところ、1週間以上たったいまも音沙汰はありません。