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 組織は同じでも枝が違うヤクザ同士が一度、伊藤をめぐり取り合いをしたことがあるという。伊藤はカネになるからだ。

「2人の親分から『伊藤さん、どっちに付くんだ』と迫られた。そのとき私は、ヤクザとして付き合ってるわけではないから『どっちにも付かない』と両者とも突き放した。人として付き合ってるんだから『どちらに付くも付かないもない』。そう話を終わらせたんです。

 実は一方は親分との付き合いだったけど、もう一方は格下との付き合いだった。それが気にくわなかったらしく、ヤクザが『どちらか選べ』と言ってきたわけ。こんな性格だからヤクザによく言われるんです、『伊藤さんはヤクザよりもヤクザだね』って」

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郡山の歓楽街の街並み(2008年9月、著者撮影)

 そのヤクザたちとのみかじめ関係も、賠償詐欺の件をきっかけに「申し訳ないけど」の一言で清算した。ヤクザの処世術からすれば、あっさり引き下がるわけにはいかぬはずだが、伊藤の施しが分かるエピソードだろう。

ボランティア尾畠さんに「負けちゃいられない」

 最近、伊藤は、コロナ対策を講じた新店舗を準備しているそうだ。

「旧知の大家さんから頼まれて、居抜きでショーパブをやろうかと。なんでも東京ではマジックミラー越しに女のコのパンチラを覗き見る『見学クラブ』ってのが流行ってるんでしょ。だからショーパブのステージをマジックミラーで間仕切りして、ショーの覗き見ができるようにしようと思ってるの。

 女のコはライブチャットのコらで賄うつもり。ウチのグループでライブチャットをやってた元従業員が、いまも別の会社で続けてるの。そこの女のコを貸してくれるって言うからさ。これならコロナ対策も出来て、一石二鳥でしょ。

 まあ、東電から返還要求が来た直後はこんな気持ちになれなかった。でも、九州の水害報道等で活躍する10歳上のスーパーボランティア・尾畠春夫さんを見て、私も負けちゃいられないって。加えて災害で家を無くしたり、コロナで廃業した飲食店報道を見るたび、『自分は幸せなんだなぁ』と感じるんです。残るピンサロはコロナで売り上げが半減し、8月にはとうとう赤字になった。本当はヤメたいけど、女のコの職を無くしたら申し訳ない。だから、そろそろ求人と営業広告を出して攻めに転じようかと。どんなに苦しくてもあと3年は頑張るつもりです。そして必ず復活して見せますよ」

インタビューに答える伊藤守氏(著者撮影)

“郡山の風俗王”の飽くなき情熱は、震災、賠償詐欺、新型コロナと苦難が次々と押し寄せても未だ消えてないようだ。

 伊藤は今年、コロナ禍で古希を迎えた。

(文中敬称略)

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