“夜の店”が人口比率で日本一と言われた東北有数の繁華街、福島県郡山市。東日本大震災前には、キャバクラやデリヘルなど500店あまりがひしめき合っていたという。

 この街に“郡山の風俗王”と呼ばれた一人の男がいた。男はキャバクラ・ヘルス・デリヘルなど最盛期には36店舗を擁す「風俗店グループ」を築きあげたが、コロナ禍のいま古びた雑居ビルの一室でピンサロ1軒だけを細々と営んでいる。

 バブル崩壊、震災、警察やヤクザとの攻防……今日に至るまでの“風俗王”の波乱の半生を、ベストセラー『売春島 「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』の著者、高木瑞穂氏が紐解いていく。(全2回の1回目。後編を読む)

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自身が刊行していた雑誌を手にインタビューに答える“郡山の風俗王”伊藤守氏(著者撮影)

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“郡山の風俗王”と呼ばれた男

 2019年1月、福島県郡山市を舞台に、ある詐欺グループが、東京電力が補償する賠償金9億3千万円を不正受給した事件が明るみに出た。東電福島第一原発事故の賠償金は、総額約9兆円以上にのぼる。その天文学的な賠償金の一部を巧妙に騙し取った。

 その手口は、会社社長やスナックのママらをターゲットに、決算書を改竄して震災前の売り上げを増やし、事故による減少分を多く申告するというものだ。詐欺師はノウハウ指南の見返りとして、賠償金から高額の手数料を得る。

「東電からは複数回にわたり6億円が銀行口座に振り込まれた。手数料を引いても、手元には2億円以上のカネが残りました」

郡山の歓楽街の街並み(2008年9月、著者撮影)

 昨年出版した東電賠償詐欺の内幕を描いた『黒い賠償』(彩図社)の流れで続けていた詐欺被害者取材を通じて知り合った、風俗店経営者・伊藤守は言う。

 カネを手にした数ヶ月後の2018年6月、伊藤の元に東電の代理人の弁護士から「通知書」と題したA4判3枚の書面が内容証明郵便で届いた。偽造された決算書を使って賠償金を受け取ったとして全額返還を求める内容だった。

 伊藤はすぐに賠償金の申請を頼んだ男らに対し、支払った手数料約3億2千万円の返還を求めて提訴した。が、うち数人の行方が分からず訴えを取り下げざるを得ないなど後の祭りだった。

 そして伊藤は東電から賠償金約6億円の返金を求め民事訴訟を起こされた。コロナ禍のなか、いまも係争中である。

 かつて“夜の店”が人口比率で日本一と言われた東北有数の繁華街・郡山も現在では凋落。震災前は駅前繁華街と朝日町を中心にキャバクラやデリヘルなどが500店ほどあったが、その数は関連業種まで含めると半数近くまで落ち込んだ。