「仕事を、お金を得るための手段なんかにしてはいけない」
「365日24時間、死ぬまで働け」
この言葉をご存知の方も多いだろう。渡邉美樹氏の過去の30年以上に渡る文章を抜粋して編集した400ページにも及ぶ「理念集」という書物に記載されていた言葉である。Aさんは入社直後に会社から「理念集」を渡され、肌身離さず持っているよう言われた。
現在は批判を受けて、「死ぬまで働け」などの極端な表現は削除されている。それでもAさんが手渡された「理念集」(2016年度版)に削除されずに残っていた、印象的な表現の一部を引用しよう。
〈私は、仕事はお金を得る為だけの手段とは考えていません。仕事とはその人の「生き方」そのものであり、「自己実現の唯一の手段」であると信じています。だから新卒のセミナーでも、時代遅れはなはだしいと言われつつ、「365日24時間働こう」と言うのです〉
〈私も会社説明会で、「仕事とは生きることそのものなんだ。仕事を、お金を得るための手段なんかにしてはいけないんだ。仕事を通して人間性を高めよう」と訴えています〉
〈ワタミタクショクの最大の商品は「人」と知れ。まごころさん(注:宅食の配達員)とは、お弁当に「心」を乗せて運び、「ありがとう」をいただく仕事をする人のこと。考え違いをして「お弁当」を運び「お金」をいただく仕事と思う人が出てこないことを祈る〉
このように、同書には、客からの「ありがとう」という感謝のために働くことを奨励して、賃金のために働くことを批判し、ワタミの利益のために自分を犠牲にすることを正当化する内容が、随所に記されていた。
もともと「気持ち悪い」と感じていたが……
ワタミに入社したAさんは、何かトラブルがあると、支社長から「理念集の第×章をちゃんと読んだ?」と問われ、渡邉美樹氏の「思想」を十分に理解していないせいだと注意されていた。
さらに、エリアマネージャーによる毎月のカウンセリングがあり、そこでは当月の「社内報」(毎月発行され、理念集の文章の多くがここからの抜粋である)の感想と、理念集の任意の箇所の感想を書かされるようになっていた。
加えて、4ヶ月に1回のレポートが課せられた。理念集から指定された章の範囲と、直近4ヶ月分の社内報に掲載される渡邉氏直筆の言葉に対する二つの感想が強制されていた。
Aさんはもともと、これらの感想文提出を「気持ち悪い」と感じていた。しかし、嫌々ながら、継続的に書かされているうちに「どこかで渡邉美樹さんの考えを植え付けられていく感じがあった」という。
それをさらに深化させたのが、「ビデオレター」の存在だった。