ワタミ株式会社の労働問題に関する告発が続いている。10月2日、「ワタミの宅食」営業所の所長が、労働基準監督署からの残業代未払いの是正勧告、月175時間を超える長時間労働、上司によるタイムカードの改ざんを次々と公表したのだ。

「ホワイト企業」宣伝のワタミで月175時間の残業 残業代未払いで労基署から是正勧告

ワタミがホワイト企業になれなかった理由は? 勝手に勤怠「改ざん」システムも

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なぜ長時間労働を受け入れてしまったのか

 Aさんは長時間労働の末、昼夜の感覚がなくなり、「このまま寝たら、もう目が覚めないのではないか」と恐怖を抱きながら生活するほどだった。「あのまま働いていたら、死んでいた」とAさんは断言する。現在は、精神疾患を発症し、労災申請をしながら休業中だ。

厚労省で記者会見したAさん ©️文藝春秋

 しかし、Aさんは命の危険を感じていながら、なぜ過酷な仕事を続けてしまったのだろうか。その背景には、労働者の意識に働きかけ、過酷な労働を受け入れさせてしまう、ワタミによる「思想教育」のシステムがあった。

ワタミの宅食の「社会貢献」

「こんなにいい仕事をしているんだから、苦しくても頑張ろう」

「苦しいことも、苦しくない。むしろ自分の力になる」

 Aさんは過重労働の最中、そう自分に言い聞かせていた。

 実際、Aさんはワタミの宅食の仕事に「誇り」を感じていたという。確かにワタミの「宅食」に「社会貢献」と言える部分がある。ワタミの宅食には、食事の調達が難しい高齢者に、定期的に安く食事を届けるというコンセプトがある。Aさんの営業所の届け先も、そうした人たちばかりだった。

 隔日でデイサービスに通い、隔日で家にいるときの食事に困る一人暮らしの高齢者。毎日昼食用と夕食用の2食を頼んで、ワタミの宅食しか食べていない高齢者、障がい者や、親を介護している人……。

 苦しい生活の事情によって、食事に手間や時間、お金をかけられず、ワタミに頼らざるを得ない様々な利用者がいた。それまで介護や教育現場で働いてきたAさんにとって、社会や地域のためになる宅食の仕事は、非常にやりがいの感じられるものだった。

※写真はイメージ ©️iStock.com

 だがそれらの「支援」を通じて無理やり利益をあげようとすれば、長時間労働や低賃金による労働者の犠牲によって支えられることになってしまう。いわば「貧困・ブラック企業ビジネス」とでもいえようか。

 Aさんも当初、仕事のやりがいと過酷な労働とは分けるべきものだと冷静に考え、業務のつらさについてはワタミに不満を抱いていた。

 しかし、劣悪な労働条件は、Aさんの頭の中ではいつしか問題とはならなくなっていた。その変化をもたらしたのが、ワタミによる「思想教育」だったと、Aさんは振り返っている。