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「365日24時間働こう」……ワタミの“思想教育”はいまも続いていた

創業者・渡邉美樹氏の「お言葉」の感想強制も

2020/10/14

個人事業主の配達員にまで強制されたビデオレターの感想

 毎月、営業所には渡邉美樹氏が出演する「ビデオレター」が提供された。人気テレビ番組「情熱大陸」のナレーターが起用され、渡邉美樹氏が毎回出演し、ワタミの事業の素晴らしさを説く30分間の映像である。

ワタミの渡邉美樹会長兼グループ最高経営責任者(CEO) ©️時事通信社

 この映像についても、毎月の感想が義務付けられていた。しかも書くのは所長だけではない。個人事業主であるはずの配達員までも、毎月ビデオレターを視聴して感想を書くことが契約に盛り込まれていた。

 配達員たちは、営業所でこの映像を見せられると、所長と配達員の名前が羅列されたシートの自分の感想欄(60字ほどは書けるスペースがある)に、手書きで感想を書かされる。なお、配達員は配達先1軒あたりの報酬が百数十円しかないが、この映像視聴や感想を書くことによる新たな報酬は一切ない。

 さらに配達員の感想に、ワタミに対する批判や仕事への不満などがある場合は、所長がその箇所に印をして、コメントを書き加えるようにと指示されていた。Aさんは独自の工夫として、すべての配達員の感想に対して、その配達員の感想を超えるほどの字数で、丁寧にコメントをするようにした。

 そして、この「コメント」こそが、Aさんの「思想形成」に大きな役割を果たしていたという。

感想を「コントロール」するのも所長の業務

 Aさんは、上司のエリアマネージャーから、「配達員たちに、ワタミを称賛するような感想を書くよう“もっていく”ことも所長の仕事だ」と言われていた。配達員の感想を「コントロール」するようにというのだ。

 とはいえ、Aさんは配達員の感想の「改ざん」をしたわけではない。まず、Aさんは所長として、配達員に先立って自分の感想欄で、ワタミの事業やワタミで働くことの素晴らしさを説いた。すると、後から書く配達員たちは、おのずと所長の「模範解答」を意識して、否定的な感想を書きづらくなる。

 それでも配達員の感想に、ワタミに疑問を呈するような箇所でもあれば、コメント欄でそこを指摘し、「意義を改めて私と共有しましょう」などと食い下がった。やがて、数ヶ月をかけて配達員たちのコメントから否定的な文章は消え、少なくとも表向きは、ワタミを褒め称える感想一色になっていった。

「ワタミの宅食」ホームページより

 ワタミの素晴らしさをひたすら繰り返す、この毎月のコメントは「思想形成」に着実に影響をもたらした。ただし、本当に変わったのは、配達員ではなく、所長であるAさんの方だったのである。