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Aさん自身の意識こそが「教育」されてしまった

 ワタミに対する「称賛」を業務の必要上、あえて続けていたはずのAさんは、徐々にワタミの事業や労働を無条件に賛美し、労働問題の不満を感じなくなる意識が本当に芽生えてきたという。配達員の感想を何度も指導するという行為を通じて、Aさん自身の意識こそが「教育」されてしまったのだ。

 ここで、Aさんが配達員に見せるために書いた、ビデオレターの感想文を引用してみよう。ワタミのSDGsの取り組みや、ワタミが行っているカンボジアの学校支援の取り組みの映像をみた感想だ。

〈SDGsという言葉が社会に広く知れわたる前からワタミは取り組みを継続してきました。私はそのような会社で仕事させていただき、本当に感謝致します。自分のすぐ近くにも、社会の役に立つことができることは多くあります。いつも勇気と誇りを胸に笑顔を持って努めて参ります〉

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〈自分もキラキラした笑顔、そしてまごころさんがキラキラした笑顔でいられる様、前進していきます〉

〈ここ(注:Aさんの営業所)を輝かせることこそ私の仕事です。精一杯、努めて参ります!!〉

※写真はイメージ ©️iStock.com

 ワタミの事業に対する絶賛と、ワタミで働かせてもらっていることの感謝。スペースをはみ出るほどの分量と、異様なほどに高揚した表現。当時のAさんが本当にワタミを「信奉」する気持ちがなければ、ここまで書くことは難しいだろう。

 現在、精神疾患で休業中のAさんは、この自分の感想文を改めて見返し、こう呟いた。

「気持ち悪いですね、いま読むと」

「洗脳」から戻ってこられた理由

 月の残業時間が150時間を超えたころ、Aさんは長時間労働について「私が悪い」と思い詰めていた。多すぎる業務量はワタミの責任なのに、そこは「思想教育」のために受け入れてしまい、むしろ仕事が遅いせいだと自分を責めるようになっていたのだ。

 そんなとき、新しく入った配達員の一人が、深夜まで働くAさんを見て心配し、単刀直入に指摘してくれた。

「Aさん、『洗脳』されてるんじゃないの?」

 当初、「失礼な人だ」と憤ったが、何度もこの配達員が親身になって指摘してくれるうちに、「私、おかしいのかも」と思い始めるようになっていた。

 また、単身赴任中だった配偶者が、コロナ禍によってテレワークで自宅勤務をするようになっていた影響も大きかった。Aさんが深夜や休日も延々と働く姿を見て、目を覚ますよう何度も説得したという。

ワタミ社内報、会長の直筆コメント(2020年8月号2ページ目)

 最後に、Aさんは筆者が代表を務めるNPO法人POSSE、そして個人加盟の労働組合のブラック企業ユニオンに辿り着き、ワタミの労働問題を大々的に告発することを決意した。こうして、周囲の人たちに恵まれ、支援者に出会えたことで、Aさんはワタミの「洗脳」を脱し、これまでの労働問題を直視できるようになったのだ。

 Aさんはいま、自分がワタミの労働問題に加担したのではという自責の念を抱いている。「ひとつ間違えば、私も上司と同じことをやったと思います」。自分の責任を果たすべく、これからもAさんは、ワタミの告発を続けていくつもりだという。