将棋ブームの波は、書店にもきている。
記憶に新しいところでは、創刊40年目にして初めて将棋をテーマにした『Number』1010号の「藤井聡太と将棋の天才」である。雑誌発売後に3度の増刷を行い、累計部数は当初の11万5千部の2倍となる23万部。これはサッカーW杯ドイツ大会直後の660号「オシムの全貌」(2006年8月24日発売)以来の大ヒットであるという。
この一因となったのは、同誌のカバーを飾っている藤井聡太二冠のタイトル獲得であることは明らかだろう。連日、ワイドショーでも将棋が特集され、王将戦リーグで藤井聡太二冠が羽生善治九段に敗れると、それを伝える速報テロップがテレビ画面に流れた。
このように世間から大いに注目されている将棋であるが、長年、棋書や関連書を揃えてきた書店では、今のブームをどのように感じているのだろうか。
日本屈指の将棋本の品揃えで知られるジュンク堂書店池袋本店の将棋棚を担当している中崎悠人さんに、昨今の将棋ブームと書店の関係について聞いてきた。まずは、実は中崎さんが愛情を注いでいるという将棋本の棚をご覧いただきたい。将棋ファンであれば、この光景を見るだけで思わず笑みがこぼれるのではないだろうか。
ファンを増やしたいという気持ちで
――将棋の本、たくさんありますね(思わず笑)。
中崎 棚の数は3本だったのが、4本半まで増えまして、800冊くらいあるでしょうか。基本的に流通しているものは、できるかぎり揃えることにしています。詰将棋の月刊専門誌『詰パラ』こと『詰将棋パラダイス』があるのも、ジュンク堂では池袋店だけです。
――これだけたくさんあると、整理するのも難しいですね。なにか独自のルールなどありますか。
中崎 将棋をあまり知らない人は、著者が「羽生善治」という人であれば、入門書から棋譜集、読み物まで同じところに並べてしまうのですが、読者対象が違いますよね。ですから、まずは入門書や、高段者向けの戦術書、そして読み物といったようにしっかりジャンルで分けます。
――戦術でも分けられていますね。
中崎 そうですね。そして流行りものは売れるので、ちょっと前は「雁木」「角換わり」、最近では「矢倉」など、流行の戦法の本を面出し(表紙が見えるように陳列)しています。
――流行の戦法というのは、本も売れるんですか?
中崎 ええ。そのあたりを把握して、棚を触れば触るほど売上の反応がよくなるので面白いですよ。
――ほか、棚づくりで気を配っていることを教えてください。
中崎 やはり将棋ファンを増やしたいという気持ちで将棋棚を担当していますので、藤井二冠の本はもちろん置きますが、それだけにならないようバランスよく他の棋士の本も並べたいと思っています。あとは、将棋を好きになってもらうために、入り口となるような入門書は大事にしていますね。
中崎さんは「わかっている人が触っていると伝わる書棚にしたいです」とも付け加えた。いやあ、それはもう十二分にビシバシ伝わってきます。ぜひみなさんも見に行ってください。