「なんで検察官の方を向くんだ!」
9月4日、東京地裁の法廷に男性の野太い大きな声が響いた。声の主は菅義偉首相が重用していたことでも知られる元法相・河井克行被告(57)だ。法廷には不似合いな威圧するような発言を裁判官にたしなめられ黙ったが、克行被告は不服そうな顔をして睨みをきかせ続けていた。
克行被告は、安倍晋三前首相の首相補佐官も務めるなど政権の中枢に食い込み、自身も昨年9月に法務大臣の座を射止めた。しかし、妻、案里被告(47)が初当選した同年7月の参院選で、地元広島県議や支援者ら総勢100人に計2900万円余りをばらまいたとして、公選法違反(買収)の罪で東京地検特捜部に起訴され、夫妻ともに政治生命は事実上絶たれた。
買収資金とは直接関わりはないが、自民党本部から参院選の時期に1億5000万円が夫妻側に振り込まれていたことも問題になった。克行被告が菅首相や安倍前首相にそれほど食い込んでいた証左だ。
現金買収は選挙違反の中でも罪が重い。克行被告は罰金刑以上の有罪が確定で、案里被告は自身が有罪になるか、連座制の対象となる克行被告らの結果次第で、失職することになる。配布したと検察が主張する金額からも、克行被告は罰金刑どころか実刑判決となる可能性が高い。
河井夫妻は法廷で何を語るのか——。
裁判の行方に注目が集まっていたが、河井夫妻の初公判が開かれるに至ったのは、7月8日の起訴から実に48日後の8月25日だった。公選法には、裁判が長引き選挙の効力が確定しない状況を少しでも短くするため、起訴から30日以内に初公判を開き、100日以内に判決を出す「百日裁判」の規定があり、夫妻にも適用された。これに沿うと、夫妻の裁判の判決は10月中旬が期限だったが、判決の言い渡しは来年になる見通しだ。
裁判引き伸ばしで夏のボーナスは640万円
被買収者が多数に及び、裁判の審理が大きく遅れていたということもあるが、克行被告が行った“裁判引き延ばし”が目的ともとれる行為も原因のひとつだ。
克行被告が先月、公判中に保釈が認められないことなどを理由に弁護人を解任したことが追い打ちをかけ、裁判の見通しはまったく立たない状況となった。裁判の引き延ばしのために刑事被告人が弁護人を解任するケースは、しばしば散見される“常套手段”なのだ。
裁判が引き延ばされることによって、克行被告が得たもののひとつは多額の議員報酬だ。