普通預金はじつはきわめてすぐれた金融商品
債券投資では、金利と債券価格が逆に動くという原理をまずは押さえておいてほしい。金利が低下すると債券価格は上がり、金利が上昇すると債券価格は下落する。
財務省が発行する個人向け国債は元本が保証され、1万円から購入可能で、直近2回の利子を放棄することでいつでも中途換金できる。これは将来、金利が上がって(債券価格が下落して)損失が生じても国が補填してくれるということで、機関投資家ではあり得ない大盤振る舞いだ。
問題は、利率が0.05パーセントときわめて低いことだ。もちろんこれは財務省が悪いのではなく、日銀のゼロ金利政策によるものだが、100万円投資して一年間で得られる利息が500円なら、わざわざ手間をかけても仕方がないと思うひとも多いだろう。
そんなときに勧めたいのが普通預金だ。こういうとたいてい「なにをバカなことを」という顔をされるが、普通預金はじつはきわめてすぐれた金融商品だ。
まず、タダでお金を預かってもらえるうえに、出し入れも無料だ。当たり前だと思うかもしれないが、これらはすべてコストがかかる。現状では、それをぜんぶ銀行が負担している(金融機関から見れば小口の預金口座はすべて赤字だ)。貸金庫を借りるにはお金がかかるが、それよりずっと便利なサービスをタダで提供してくれているのだから、これを使わない手はない。
そのうえ普通預金は元本が保証されていて、金融市場がどれほど混乱しても損失を被るおそれがない(金融機関が破綻しても1000万円までは保険から支払われる)。
ゼロ金利では債券価格が上限いっぱいまで上がっているのだから、あとはそのまま横ばいか、価格が下がる(金利が上がる)しかない。将来、金利が上昇に転じるようなことがあれば、投資家はクリックひとつで普通預金からより有利な金融商品(定期預金や国債、外貨預金など)に乗り換えることができる。この流動性の高さが普通預金の大きな魅力だ。
「普通預金ではお金が増えない」のは確かだが、デフレで物価が下落していれば実質利回りはプラスになる(そのぶんだけ生活に余裕ができる)。未来が不確実なとき(いまがまさにそうだろう)に、投資資金の待機場所としてもっともふさわしいのが普通預金なのだ。
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作家・橘玲氏の寄稿「臆病者のための『コロナ時代の資産防衛術』」の続きは、「文藝春秋」11月号と「文藝春秋digital」に掲載されています。
臆病者のための「資産防衛術」