カンヌ国際映画祭公式選出作品でもある河瀨直美監督の『朝が来る』。そこで永作博美が演じた役は、愛する夫との間に子供ができず、養子をもらい愛情こめて育ててきたある日、本当の母親と名乗る人物が現れて心揺れる主人公。
不妊、血のつながらない息子との関係、子供を手放さざるを得なかった若い母親……次々と訪れる難題にひとつひとつ向き合っていく主人公の強さは、永作本人の資質であろうか。
仕事も家事も、すべて全力でやりながらも、「できないときはすぐに諦める」「心のなかで『ごめんなさい』と思いながらそっと調整します」と、からりと笑顔で語る永作に心が軽くなった。
なんでもやろうと思い過ぎると心が折れてしまうものだから、適宜、柔軟でいること。それこそが永作博美をエターナルに輝かせる秘密かもしれない。
もっと詳しく話を聞いてみよう。
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まるで二重生活のような「役積み」
――『朝が来る』の河瀨直美監督ならではの演出方法「役積み」(撮影していないときにも役を演じて役の経験を積む)によって、撮影前に夫役の井浦新さんとデートをしたり、子役の佐藤令旺さんも交えてマンションで生活したりしたそうですね。
永作 まず、河瀨監督から「デートに行きます」と言われ、栃木県の大谷資料館に行きました。その際、「夫(清和)の誕生日プレゼントを買ってきて」とも言われたので、一生懸命悩んで選んだものを持参して。井浦さんの演じる役を想定して選んだものを井浦さんは役になりきっているかのようにすごく喜んでくれました。それから有明の高層マンションで一緒に暮らしました。
――実際に一緒に暮らしたんですか?
永作 井浦さんも私も各々家庭がありますので終日共に過ごすことはできなかったのですが、朝、マンションに来て、それぞれがなんとなく自分の定位置につき、「ごはん食べましょう」「お父さん、今日は仕事だから『行ってきます』しようか」などという日常の再現からはじまって、「今日はお休みだからママ友と一緒にみんなで遊ぼうか」という日もあれば、子供の誕生会をしてみたりもしました。
映画のなかで部屋に飾ってある誕生会の写真は、実際に「役積み」したときに撮影したものです。その日、私は誕生会のために唐揚げをたくさん揚げました。