侮蔑を受け止めた田中角栄
田中はニクソンから「ピグミー」と侮辱されても、反発することなく、戦後米国から受けた支援に感謝し、安保条約のおかげで日本は守られていると認めた。そして、日米安保があったから日中国交正常化ができた、とも主張した。論理的には、のれんに腕押しのような反論だ。
では、「五年後の世界」はどうなるか。ニクソンは「日米安保条約が廃棄され、日本で支持されなくなったら、多くのアメリカ人は喜んで出て行く。韓国から米軍も撤退する」と言った。言うことを聞かなければ米軍を撤退させる、というカードをここで見せた*13。
*13 *12同
それにしても、日本と日本人に対して、これほど侮辱的な言葉を使った米大統領がいただろうか。日本側の会談記録はどうなっているのか。外務省に情報公開請求して入手した*14。
*14 外務省情報公開第00014令和2年4月2日、開示請求番号2019-00903
外務省の会談記録では、ピグミーを訳さず「政治的な小人(political pygmy)」とカッコ付き、あるいはカッコなしで英文のまま記していた。「田中総理・ニクソン大統領会談の模様」と題する1973年8月23日付9ページの文書は、こうした刺激的な発言を省いていた。この会談が外交問題化しないよう配慮した形だ。「ピグミー」は、『リーダーズ英和辞典』(研究社)によると、「アフリカ赤道森林地帯の矮小黒人種」とある。それが転じて「こびと」「知力の劣った人」という意味もあるとしていて、差別的に使用され得る言葉であることが分かる。