私は酒飲みだ。血液の半分はアルコールで出来ている。そのアルコールの八割は日本酒である。
実は日本酒は、和洋中どんな料理にも合うオールマイティーな酒なのだ。
日本人好みのあっさりした広東料理に合うのは紹興酒ではなく日本酒ではないか、フランス人が生牡蠣に白ワインを合わせるのは日本酒の存在を知らないからではないか、常々そう思ってきた。
だって、生ものには日本酒でしょ。ラーメンにも日本酒でしょ。日本酒ですよ。
とまあ、このような日本酒好きでなくとも、この本を読めば絶対に日本酒を味わってみたくなること請け合い。何しろ、生粋のワイン党をも虜(とりこ)にする名酒の数々が登場するのだから。
正直言うと、今まで私の関心は飲む一方で、愛する日本酒がどのように造られているか、考えたこともなかった。本書を読んで目から鱗、反省と欲望がいっぺんに湧いてきた。
日本酒造りは勘と経験を頼りにした職人技と思っていたら、今や醸造技術・設備・貯蔵方法・原料米の品質・種麹と酵母など、すべての面で開発と技術革新が進み、特にこの十年は恐るべきスピードで進化しているという。
本書に登場する若い作り手はほとんどが蔵元杜氏(社長兼技術主任)で、互いにライバルとして切磋琢磨し、仲間として助け合い、情報を共有している。その結果“点”だった技術は“線”となり、“面”に広がり、日本酒のクオリティは史上最高となった。
しかし、それは「技術者の頭脳で、労を惜しまず愚直な職人仕事をやりぬいた結果」でもある。「最高の酒を造るために最高の道具を求めるが、手抜きをするための道具や楽をするためだけの機械は要らない」という蔵元の言葉は、彼ら全員に共通の思いだろう。
この幸せな時代に生きている幸運を感謝したい。
余談だが、登場する蔵元杜氏さんが好い男揃いで、びっくりした。
さんどうあつこ/東京都生まれ。上智大学文学部卒業後、新聞社、出版社を経てフリーランスに。著書に『めざせ!日本酒の達人 新時代の味と出会う』『極上の酒を生む土と人 大地を醸す』などがある。
やまぐちえいこ/1958年東京都生まれ。早稲田大学文学部卒業。著書に『月下上海』『食堂のおばちゃん』『早春賦』などがある。