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「“ヤバい島”から泳いで逃げた」200万で売られた17歳少女が暮らした「借金返済まで絶対に出られない雑魚寝部屋」

『売春島 「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』#4

2020/10/24
note

行商のオバちゃんから買った30万円の“シャネル”

 むろん、先人たちの潜入ルポでは浮かび上がらなかった島の暗部も見えてきた。アメをぶら下げられメグミが抱いた女将への愛情の反面、メグミたちにカラダを売らせるムチの手口だ。青木氏が言う。

「彼女が暮らした旅館の雑魚寝部屋には、彼女の後にも騙されて売られた『外出不許可』のコが何人かやってきた。島の中は自由に出歩けるが、渡し船に乗って対岸の陸地に行くことは許されない。もっとも、島の中では自由といっても、一人で出歩けばすぐに客引きのオジさんたちが声をかけてくる」

置屋以外にも居酒屋やカラオケスナックなどがあった(2003年、著者提供)

 なるほど、常に監視されているようなのである。ヘンな気は起こすなよ、と。

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「また時々、行商のオバちゃんが、洋服やバッグを売りに来るらしい。借金が減ると、それを女将が執拗に薦めてくる。本物か、はたまたニセモノか、島では使い道がない30万円もするシャネルのバッグをツケで買うように仕向けられるそう」

 こうして新たな借金を背負わせられる。いつまでもいさせようというハラなのだろうか。

 果たして、1日に何人の客を取れば完済できるのか。終わりなき日常を打開しようと、メグミは、紙に書いて返済額を計算し、目標を持って働くことにしたという。

 しかし、何度計算しても、紙はいつの間にか無くなってしまう。誰かが見つけて捨ててしまうのだった。

観光客を出迎える島の看板(著者提供)

しばらくするとサイコロ博打に誘われ、また借金が増える

「旅館の中には宴会部屋、雑魚寝部屋、食堂、客室以外に、入室禁止の部屋があった。女将さんがサイコロを持ってウロウロしているのを見たことがあるらしく、多分、その秘密の部屋で賭博をしていただろう、と。しばらくすればサイコロ博打に誘われ、また借金が増えるような仕組みになっていたらしい」

 そういう青木氏による取材を裏付けるように、この島の置屋は断続的に警察当局により摘発されていた。置屋とは、小さなスナックのような飲み屋を装った売春宿のこと。そして過去の報道記事から見えてきた、その置屋を舞台とした管理売春の実態――。

売春島の事件を報じる新聞

 その件数の多さからは、公然と春が売られていたことが窺い知れる。(略)

 過去の報道では職業安定法違反、売春防止法違反、入管難民法違反のいずれかで摘発されている。ここから浮かび上がるのは、女を売り飛ばすブローカー、実際に売春させる性風俗店を提供する経営者などが暗躍する、“売春島”の実態だ。

 ブローカーは、家出少女や不法滞在の外国人女性をあの手、この手で見繕い、置屋経営者に引き渡しカネを得る。そして置屋はカネを回収するため女たちにカラダを売らせる。少なからずヤクザが介在していたことからも、この島は暴力団にとって美味しい“シノギ(仕事)”に違いない。前出のメグミも、そんな毒牙にかかった一人なのだろう。