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「“ヤバい島”から泳いで逃げた」200万で売られた17歳少女が暮らした「借金返済まで絶対に出られない雑魚寝部屋」

『売春島 「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』#4

2020/10/24
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“売春島”をめぐる様々な噂

〈1971年に三重県警警部補が内偵特捜の捜査官として島に潜入し、売春婦の女性と内縁となり諭旨免職される。その後は島でスナック経営者兼売春斡旋者となっていたが、1977年10月に実施された手入れで内妻とともに逮捕されて、売春婦が保護されている。このとき保護された売春婦の大半は家出少女などで、借金付きで送られ売春をさせられていたという。なお、この元警部補は出所後、島でホテル経営などに携わり、島の観光産業の発展に尽力していく〉

 これは、インターネットの世界でまことしやかに囁かれている話だ。検索エンジンに“売春島”と入れて検索すれば、他にも様々な噂が踊っている。

店舗内に残っていた裏カジの備品の無線機やレートの書かれたプレート(筆者提供)

〈島内には名所旧跡などの被写体がないため島内を撮影した写真がほとんどないことや、渡し船の係員が興味本位で島を訪れる男性を防ぐため、宿泊を予約しているかなど確認する〉

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〈島のいたるところに売春斡旋所がある。このため警察・報道関係者に対する警戒心はきわめて強く、島全体に入島者に対する情報網が張られているのはもちろん、うかつに写真を撮ることも許されない〉

 これらのオカルトめいた話は、脚色された部分はあるにせよ、決して捏造の類いではなく、過去の事件報道や個人の体験談などに基づき囁かれている。前述の“泳いで逃げた女”の告白も、その元ネタとして伝説化している。

 その最たるものが『伊勢市女性記者行方不明事件』だろう。1998年11月24日、三重県伊勢市の観光情報誌『伊勢志摩』の美人ライター・辻出紀子さん(24、当時)が、勤務先を退社後に行方不明となった。決死の捜索を試みたが、事件は迷宮入り。いまだ彼女は見つかっていない。

島の海辺でたたずむ女性(著者提供)

そして島民たちは警戒心を強めた

 その地理的理由から“売春島”と失踪事件を関連させ、バックパッカーだった彼女が、失踪前日まで旅行をしていたタイで、この“売春島”への人身売買ルートを知ってしまったとか、彼女がこの島の売春組織をかねてから調べていたために誘拐されたという説を並べる雑誌もあった。

 この時期の“売春島”は、摘発事例からも分かるように、日本人はもちろん、多くのアジア系女性が売春婦として働いていた。そのため辻出さんとの関連を面白おかしく並べたてたのだろう。ちなみに当時は、彼女が最後に会った男性による犯行説と、北朝鮮による“拉致説”が有力視されていた。

 こうした噂話の数々に、前述した数多の事件報道が事実となって重なり、この島は“売春島”と呼ばれ、“タブーな桃源郷”になった。僕のような取材者はもちろん、興味本位で訪れる好事家たちが体験談を持ち帰り、それを雑誌やブログで流布することで都市伝説化した。

島にあったスナック(著者提供)

“ヤバい島”だと書き立てられることが多く、島民たちはそれを不服として警戒心を強めた。その警戒心は、さらに訪れる者たちの脳裏に禁断というイメージを植え付けた。

#5へ続く)


 10月24日(土)21時から放送の「文春オンラインTV」では、『売春島』著者の高木瑞穂氏が本書について詳しく解説する。

売春島~「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ~

高木 瑞穂

彩図社

2019年12月17日 発売

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

「“ヤバい島”から泳いで逃げた」200万で売られた17歳少女が暮らした「借金返済まで絶対に出られない雑魚寝部屋」

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