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ハードルが高い「正当防衛」の逆転無罪
しかし、「正当防衛」が認められるケースはそれほど多くない。そもそも、熊沢被告の事件で1審判決が指摘したように、息子の件について家族以外に相談していれば、今回のような事件を回避する余地はあっただろう。さらに、被害者が負っていた傷の多さは、正当防衛にそぐうのか。英一郎さんは「殺すぞ」との言葉を発してはいたものの、凶器を手にしていたわけではない。
具体的に正当防衛が認められた過去の事例は「加害者がとっさに被害者の肩付近を狙って差し出した包丁が、不幸にも深く突き刺さった」「ナイフを手にした相手が馬乗りになり襲ってきたため、落ちていたナイフを偶然つかんで抵抗し、もみ合いになり刺した」といったケースが典型的だ。つまり、意図せずして突き出した凶器が被害者に刺さったとか、元々は被害者の方から加害者を襲ってきたといった事案で正当防衛が認められているのだ。
こうした点からすると、熊沢被告の2審での言い分が通るのかは疑問だ。09年の裁判員制度導入後の2審は一般市民による1審の判断を尊重する傾向にあることを鑑みても、熊沢被告の「逆転無罪」はハードルが高いのではないか。