創業以来、66社を買収してきた
今の日本電産は、自動車メーカーと同水準の技術力を持つ「ティア0.5」への変身を目論んでいるように見える。
もうひとつ、永守氏の経営者としての強みはM&Aに強いことだ。創業以来、66社を買収、それを梃子に業績を拡大させてきた。この強さは変化の時代に、これまで以上に活かされてくるだろう。
「自動車メーカーと競争してクルマを造るつもりはありません。しかし、『完成車の寸前』まではやるつもりです。将来的にはトラクションモーターに加えて、センサーやステアリング、ブレーキシステムなどの主要部品が搭載されたEVのプラットフォーム(車台)を作りたい。弊社が提供するプラットフォームさえあれば、あとは自動車メーカーがタイヤとボディを取り付ければ完成車が出来上がるイメージです。そのために自動運転の技術にも力を入れています。これが実行できて初めて10兆円は可能となるのです」
こう語る永守氏の言葉には、さらなる成長への思いが込められている。
永守氏は「令和の幸之助」
こうした日本電産や永守氏の言動を見たパナソニックの元役員は「永守さんは『令和の幸之助』のようだ」と語る。「幸之助」とは松下電器産業(現パナソニック)の創業者、松下幸之助氏のことだ。氏は、学歴は低いものの、裸一貫から会社を起こし、M&Aで会社を大きくした。
永守氏は中学生の時に父親を亡くし、実家が貧しかったため、給料をもらえる職業訓練大学校に入った。そこから身を起こし、一代で日本電産という兆円企業を築き上げた。松下氏と永守氏は、若い頃は決して恵まれた環境ではないが、努力と天性のセンスで這い上がってきたイメージが重なる。人心掌握術に優れている点も共通するだろう。
ただ、松下氏と永守氏では大きく違う点が一つある。それは、松下氏は自分が鬼籍に入った後も永続する組織を築いたが、永守氏はまだ現役バリバリであるという点だ。現実的にいまの医学では難しいだろうが、永守氏は「125歳までやる」と意気込んでいる。
筆者は自ら事業を起こした経営者のタイプは大きく3つに分類できると思っている。戦国大名の価値観を破壊した織田信長型、その信長の作った地盤を利用して天下統一を果たした豊臣秀吉型、信長・秀吉を引き継ぎ200年以上永続する幕府を作った徳川家康型だ。