オスの頭を激しく揺らす激しいキス
海底付近の岩陰にひっそり佇むスジオテンジクダイは、メスがオスにキスをするような求愛をするのだ。
産卵期、メスのお腹が卵で膨れ今日産卵するぞ、となるとメスの求愛が始まる。半開きにした口を閉じながら、オスの頬の辺りに激しいキスをするのだ。
その激しさたるやオスはキスをされるたび頭が振れ、メスの反対側に飛ばされる。間髪を入れずメスはさらに激しくキスをするので、ペアはメスに押される形でメスの反対側にグイグイ回る。
接吻なのか頭突きなのか、ほとんどDVもどきのこの激しい行動に、オスはまんざらでもない様子でメスから離れようとはしない。
魚界においても愛の形は色々のようだ。
時間経過で変化する求愛
スジオテンジクダイのこの激しい求愛は、産卵の3時間ほど前から始まり、2時間ほど行われる。2時間後、メスの求愛行動はDVもどきから、見るからに愛情たっぷりの行動に変化する。
メスは体を震わせながら、腹をやさしくオスの腹にすり寄せていくのだ。ノーマルな求愛になっても、メスの情熱は強いらしく、DVもどきの求愛同様、ペアはメスの反対側に回る。
そして求愛の終盤、産卵直前になると、ついにオスが動き始める。受身だったオスが、ついに求愛行動を始めるのだ。体を震わせながら、腹をやさしくメスの腹にすり寄せる。この求愛が始まると、今までとは反対にメスが押される形でオスの反対側へ回る。最後のほんの一時、オスが意地を見せているのだろうか。
この後、ペアは腹を寄せ合い、メスが卵を産み出したと同時にオスが放精する。このとき卵塊はメスの腹に繋がったままで、精子で白濁した海水がまとわりついている。そして、オスは精子ごと卵塊をくわえ込み、メスの腹から引きちぎる。
スジオテンジクダイは時間経過に伴いメスの求愛の方法が変化し、さらにメスからオスへと求愛をする性が交代するとても珍しい魚なのだ。