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DVまがいの激しいキス、何食わぬ顔で我が子を喰らうオス…知られざる魚界の不思議に迫る

『〈オールカラー版〉魚はエロい』より #2

2020/11/02
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これも繁殖戦略か、わが子を喰らうオスの真意

 フィッシュウォッチングでクロホシイシモチを観察していると「オスは卵を守っている間、餌を食べないの?」と多くのダイバーに度々質問される。「オスは卵がふ化するまでの2週間くらい、餌を摂らずに頑張って卵を守っています」というのが一般的な答えだ。

 しかし、この答えとは真逆の驚きの生態行動も観察されている。卵を守っているはずのオスが、その卵を食べてしまうのだ。なぜこのようなことをするのだろうか。

クロホシイシモチの産卵、オスは卵保護のため卵を咥えようとしている ©瓜生和史

 オオスジイシモチのオスは産卵期間中、卵を守り、ふ化させるということを数回くり返す。1回の口内保育に5~17日間、これを毎回繰り返しているので、初めは逞しかったオスも産卵期の終わりが近づくにつれて痩せ細り、死亡する確率も高くなる。口内保育中のオスの死は、同時に卵の死である。オスは保育中の卵と共倒れしてしまうより、口の中の卵を食べて次の産卵に臨んだほうが後々の繁殖に有利になる。

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 また、繁殖期になるとメスは4日間で卵を作ることが可能になる。オスの保育日数のほうが長いので、相対的にメスが過剰になる。卵で腹が膨らみ、産卵したくて仕方のない切羽詰まった2匹のメスから、同時に求愛されることも起こり得る。オスはメス2匹分の卵を同時に育てられればよいが、口には入りきらない。

 ひもじい思いをしてきたオスにとって余分な卵は渡りに船、先に産卵した卵を食べて腹を膨らませた後、「何食わぬ顔」で次の卵を保護するほうが、オスにとっては効率が良い繁殖戦略といえるのだ。

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