首都圏の人たちの間で「ムサコ」といえば、川崎市中原区の武蔵小杉を指す。この地域は近年タワーマンションが林立して、不動産価格が急上昇。ここに暮らす裕福な家庭の奥様が「ムサコマダム」などと持て囃された。いっぽうで急成長する街に対して様々なやっかみも含んだ中傷も受けるようになった。朝の通勤ラッシュ時、武蔵小杉の駅に入場するのに、20分もかかるとか、小学校は押し寄せる児童で大混乱だとか、とどめは昨年秋に首都圏に来襲した台風19号でJR武蔵小杉駅前が浸水し、駅前のタワーマンションの地下部分が水没してエレベーターが停止になり、災害に対するタワマンの脆弱性をあらためて浮き彫りにする象徴的な話題を提供したりした。
ほかにも「ムサコ」は2つある
だが、実は東京都内には、ほかにも「ムサコ」の名称で親しまれている街がある。ひとつはJR中央線武蔵小金井駅周辺であり、もうひとつが品川区の東急目黒線の武蔵小山駅周辺である。これら3つのムサコに共通するのは、ムサコの名称は駅名およびその周辺のエリアの通称であって、いずれも地名ではないことだ。
武蔵小杉は言わずと知れたタワマンの街、武蔵小金井は東京学芸大学や東京経済大学、東京農工大学など学校の街、それに対して武蔵小山は古くから商業の街として栄えてきた。3つのムサコには明確な個性があったのだ。
ところが最近、「商業の街=武蔵小山」に大きな再開発の波が押し寄せている。この話をする前に、武蔵小山駅周辺をまず地図で俯瞰してみよう。
武蔵小山の駅周辺には、個性あふれる5つの商店街
なるほど駅周辺には「武蔵小山商店街パルム」「一番通り商栄会」「親友会通り商店街」「後地商店連合会」「平和通り商店街」の個性あふれる5つの商店街が形成されている。
駅前には進学指導特別推進校に指定されている都立小山台高校があって若い高校生が街中を歩き、駅前から続くパルム商店街は全長800mにも及ぶアーケード街で約250店舗が集結、中原街道の平塚橋付近まで続く。この平塚橋を中心に東急目黒線と池上線に挟まれた小山、荏原、平塚あたりは住環境と商業環境が融合した街で池上線の戸越銀座あたりまでは住宅地として恵まれた良い立地になっている。
下町商店街としての活気を保ちつつ、品川区と目黒区の区界にあって閑静な住宅地としての趣を残す武蔵小山は、肩肘を張らない住みやすい街として、知られてきた。