医師の診察を受けられずカメルーン人の男性が死亡。インド人男性が首にタオルを巻き自殺。ハンストによりナイジェリア人男性が死亡……公式ホームページによると“日本の安全と国民生活を守りつつ国際交流の円滑な発展に貢献”する国家組織「入国管理局」の収容施設でいったい何が起こっているのか。
共同通信記者の平野雄吾氏による『ルポ入管――絶望の外国人収容施設』から入管施設に収容された非正規滞在者の声を引用し、紹介する。
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自傷行為・自殺未遂が相次ぐ入国管理センター
東京五輪や外国人労働者の受け入れ拡大に合わせ、政府が在留資格のない外国人(非正規滞在者)の取り締まりを強化している。不法在留や不法入国、不法上陸、あるいは刑罰法令違反を理由に強制退去の対象となった外国人を次々と入管施設に収容、拘束期間が長期化している。全収容者数の半数超に当たる680人超が半年を超える長期収容となった(2019年6月時点)。3年、4年と収容されている外国人も多く、中には、拘束期間が約8年間に及ぶイラン人もいる。無期限の収容制度には、国際社会から相次いで懸念が表明されるほか、国内の人権団体からも批判が高まる。出口の見えない収容で精神を病む外国人も多く、2018年4月にはインド人男性が東日本入国管理センター(茨城県牛久市)で自殺、そのほか自傷行為や自殺未遂が相次ぐなど絶望感が広がっている。
入管施設内の過酷な環境
絶望感に拍車を掛けるのが入管施設内での処遇である。入管当局が積極的には広報しないため、多くの国民はその実態を知らない。暴行、隔離、監禁、医療放置……。収容を経験した外国人や入管当局作成の内部文書を基に、取材を進めると、肉体的、精神的に外国人を追い込む入管施設の実情が浮かぶ。外国人支援団体や弁護士からは「命や人権を軽視している」との非難が絶えないが、入管当局は「適切に対応している」との説明に終始する。
この章では、実際に入管施設内で発生した「事件」を検討しながら、何が起きているのかを見ていく。在留資格がなく、脆弱な立場に置かれた外国人を前に現れる権力の姿がここにはある。法務省の内部部局だった入国管理局は2019年4月、出入国在留管理庁(入管庁)へ格上げされた。巨大化する国家組織が社会から隔絶された密室で繰り広げる様々な「事件」はこの国の深層を映し出している。