収容している人々が命を落としても、なぜそのような事態に陥ってしまったのかが詳細に説明されることはない。恣意的で不公平、不透明な決定がまかり通るともいえる苛烈な環境の「入管」に、現在もなお数多くの非正規滞在者がとどめられている。彼ら彼女らはどのような苦悩を抱え日々を過ごしているのか。
共同通信記者の平野雄吾氏の著書『ルポ入管――絶望の外国人収容施設』から、巨大化する国家組織の知られざる実態を紹介する。
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問われているのは「体質」
全国の入管施設で、職員の制圧による収容者の負傷が相次いでいる。クスノキ(編注:前編で取り上げた)の例に加え、東京入管で2017年5月、イラン人男性が首や足首を捻挫したほか、同じ東京入管ではトルコ出身のクルド人男性が2018年5月、首を負傷した。大阪入国管理局(現大阪出入国在留管理局、大阪市住之江区)では2017年7月、トルコ人男性が右腕を骨折したほか、同一二月にはペルー人男性が腕の骨にひびが入る重傷を負っている。また少し溯れば、西日本入国管理センター(大阪府茨木市、2015年に閉鎖)で2002年4月に中国人男性が肋骨を骨折した事案もある。
「権力を行使する者が収容者の人権に配慮する体制がきちんとできておらず、同じことが繰り返し行われている。今後、そういうことのないようにという思いも含めて提訴しました」
大阪入管で骨折したトルコ人男性、ムラット・オルハン(34)は2018年5月、制圧は違法な暴行に当たるとして、国に約450万円の損害賠償を求める訴えを大阪地裁に起こした。オルハンの代理人弁護士、空野佳弘が提訴後に開いた記者会見で問題提起したのは長年変わらない入管施設の体質だった。
「外国人は人間扱いされません」
オルハンは2017年7月、少なくとも7人の職員に制圧され、右腕骨折の重傷を負った。大阪入管作成の内部文書によると、オルハンが睾丸の痛みを和らげる薬を飲んだ際、職員がその服用を確認しようとしたところ、オルハンが拒み本を投げつけたため別室へ連行、うつぶせに倒し手錠をかけた。オルハンが痛みを訴えたため外部の病院を受診、右上腕骨折と診断され、手術を受けた。
「うつぶせに倒され腕をひねられたとき、激しい痛みで動けなくなりました」。オルハンは大阪入管の面会室で2018年5月、筆者にそう証言した。
本を投げつけた理由については、服用確認のときに職員の挑発があったと語った。
「いつもは「口を開けてください」と言うのに、この日は(大人が子どもに言うように)「あー」とかでした。ばかにした態度で、怒りが湧いたんです。手術後のリハビリも十分に受けさせてもらえず、まだ腕がうまく上がりません。ここでは、外国人は人間扱いされません」