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まかり通る権力の濫用

 入管施設は法務省令「被収容者処遇規則」に基づき運営され、この規則は要件を定めた上で、職員による収容者への実力行使を認めている。規則第17条第2項は次のように定める。

「被収容者が遵守事項に違反する行為をし、又は違反する行為をしようとする場合には、その行為の中止を命じ、合理的に必要と判断される限度で、その行為を制止し、その他その行為を抑止するための措置をとることができる」

 遵守事項に違反するかどうかや合理的に必要な限度がどの程度なのかを判断をするのは入管職員である。大阪入管が制圧事案を自ら広報することはないため、その判断が妥当だったかどうかは裁判でも起こさない限り、誰も検証できない。空野と共にオルハンの代理人を務める弁護士の中井雅人は「骨折するまで腕をひねりあげるのは合理的な範囲を超え、違法な公権力の行使に当たります。オルハンさんは抵抗しておらず、制圧する必要もありません」と批判する。空野が言葉を継いだ。

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「オルハンさんは中に小さな窓とトイレしかない隔離室に連れて行かれ、入管当局からすれば、ここに放り込むだけで自傷他害の防止という目的を達成できるのに、職員は足をかけてオルハンさんを倒した後、押さえ込んで手錠をかけています。権力の乱用であって、人権保障の考えは微塵もありません。制圧は収容者に言うことを聞かせるための脅しであり、制裁なんです」

 一方、国側は訴訟で、オルハンは興奮しており、暴れて職員を攻撃する可能性があったため、制圧は必要だったと主張している。「骨折の傷害を負ったことをもって合理的に必要と判断される限度の実力行使を超えると評価されるものではない」と付け加え、制圧行為の正当性を訴えている。

今に始まったわけではない収容者への実力行使

 職員による収容者への実力行使は、1990年代にも散発的に発生している。毎日新聞によれば、東京入管第二庁舎(東京都北区、2003年に閉鎖)で1993年5月、イラン人男性が職員から頭や顔、腕を殴られたり蹴られたりする暴行事件が発生、1994年11月には違反調査中の中国人女性が顔面を殴られ負傷している。現在は殴る蹴るといった暴力行為は鳴りをひそめたが、日常的に実践される多人数による取り押さえでも負傷事案は後を絶たない。命の危険を指摘する医療関係者もいる。入管施設での面会活動を続ける内科医の山村淳平は「首や胸を押さえつけ、喉の気管も狭くする制圧行為は、場合によっては窒息死を招く可能性があります」と危険性を訴える。