「大切なのは収容者との対話や説得であって、取り押さえるのは、入管当局が自らの説明能力の欠如をさらしているようなものです」
入管職員には、収容者と向き合い丁寧な対話を重ねるという態度はほとんどみられない。入管施設では、一般職員が名前を明らかにすることはなく、名札の代わりに番号札を付け収容者に対応する。対等な人間関係はここにはなく、匿名性が無責任体質を生み出すとの批判もある。
「嫌がらせ」は日常茶飯事
制圧という実力行使に至らないまでも、日常的な「嫌がらせ」は数多く伝えられる。東日本センターでは2011年8月、職員が中国人男性に「外国人をいじめるのが楽しい」と暴言を発したことが報じられた(同年10月13日共同通信配信)ほか、大村入国管理センター(長崎県大村市)は2017年10月、職員が中国人男性に対し「ボケ」「あほんだら」と発言、センターが規則違反行為として厳重注意処分をしていたことが内部文書で明らかになった。
東日本センターに収容中、制圧を経験したトルコ出身のクルド人男性デニズ(40)は「ここが快適な場所だったら日本から出て行かないだろう。お前らを日本から追い出すためにここがあるんだ」と職員から言われたと証言する。収容者の対応に当たる入国警備官には服務心得がある。その第3条は「基本的人権を尊重し、個人の自由及び権利の干渉にわたる等その権能を濫用してはならない」(1981年改訂)と定めている。それがどの程度、徹底されているのかはこうした事例から判断できる。弁護士の中井雅人は言う。
処分されているのは氷山の一角
「暴言の話は収容者からよく聞き、処分されるのは氷山の一角に過ぎません。収容者の人権を尊重する研修を入管当局がしっかりと実施すべきです」
制圧という名の暴力が相次ぐ背景には、無数の暴言があり、多くの場合それを容認してきた入管当局の姿勢がある。制圧の違法性を問うオルハンの訴訟で、代理人の空野佳弘や中井雅人が問いかけたのはそんな入管職員の気質と入管施設の体質でもある。
(編注:本訴訟について、大阪地裁で2020年9月29日、国側が謝罪し300万円を支払うことで和解が成立した)