文春オンライン

2020/11/01

「制圧」という名の暴力

「倒すぞ、制圧、制圧」「はい、決めるぞ」。2018年10月9日、強制退去の対象となった外国人を収容する東京入国管理局(現東京出入国在留管理局、東京都港区)。ブラジル人アンドレ・クスノキ(32)の居室に鈍い叫び声が響いた。6人の入管職員がクスノキを抱え上げ畳の床に押し倒す。「暴れるんじゃねぇよ」「抵抗、するなー」。ドスのきいた職員の声に混じり、クスノキの声がかすかに漏れる。「痛え、腕痛い」。職員が後ろ手にクスノキに手錠を掛けた。

「腕が痛い、腕痛い……」

東京入管の居室で、職員に制圧されるアンドレ・クスノキ(2018年10月、東京都港区 / 訴訟の過程で入管当局が裁判所に制圧映像を提出した) ©尾家康介弁護士

 東京入管職員は同年10月5 日、クスノキに収容場所を茨城県牛久市の東日本入国管理センターに移すと一方的に告げた。職員は4日後のこの日、早朝からクスノキの居室を訪れ移動の準備をするよう指示、クスノキが拒否し、居室内のトイレに長さ約1.6メートルの長机2台をバリケードのように縦に置いて立て籠もったため、実力行使に出たのだった。入管当局はこうした収容者の取り押さえを「制圧」と呼んでいる。

東京入管のマットの敷かれた床で、職員に制圧されるアンドレ・クスノキ(2018年10月、東京都港区 / 訴訟の過程で入管当局が裁判所に制圧映像を提出した) ©尾家康介弁護士

息ができないという訴えも無視される

 職員による制圧は続いた。手錠を掛けられ、身動きの取れなくなったクスノキを五人で抱え上げ、エレベーターに乗り別室へ連行する。うつぶせに倒し、背中や腕、足を押さえ込む。マットを敷いた床に顔面を押しつけ、全体重で頭を押さえつける。クスノキは思わずせき込んだ。「息ができない」。クスノキの訴えもむなしく、一人の職員は「息できてるから」と一蹴した。

「きょう、茨城の入管に行くから」。取り押さえには直接加担していない別の職員が中腰の姿勢で視線を落とし、クスノキに話し掛けた。

「なんでおれが行くんだよ」。頭を押さえつけられたクスノキが言い返す。

「うるさいぞ。静かにしろ」。クスノキを押さえつける職員が濁った太い声を出す。「こいつ、小学生みたいだな」。別の職員の嘲笑じみた声も漏れる。すでに手錠をされているクスノキへの締め上げはこの後、約10分間続いた。

「なんで行かなきゃ行けないんですか」。取り押さえが終わり、地面に座らせられると、クスノキは職員に尋ねた。

「こちらの事情、収容場所を変えるだけ」

「なんで移動なんですか」

「こっちの事情。誰がどうとかではなくて、それはもう決まったこと」

「おれの知り合いは全部東京にいるんだよ。茨城だと誰も面会に来られないんだよ、わかる?」

「それも踏まえて選定している」