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能力のある人材を東大医学部がダメにしている

鳥集 ところが、そういう能力のある人たちを、東大医学部がダメにしていると和田さんはおっしゃっている。

和田 そうです。昔から東大医学部には全共闘的な反体制の医者と、教授にヘコヘコついていく医者がいました。反体制的な医者の代表が、長野の地域医療を切り開いた「農村医学の父」と呼ばれる佐久総合病院の故・若月俊一先生や、諏訪中央病院の故・今井澄先生のような人たちです。高齢者が多い農村の中で、しかも少ないマンパワーで患者さんを診なければいけない悪条件の環境を、自らの力で克服していった。東大医学部を出ている頭のよさがそこで発揮されるんです。

 私は今年60歳になるんですが、時代背景を言うと、学生時代は全共闘が本格的に敗北した頃なんですね。でも、それまでは全共闘が勢力を持ち、医局講座制に反対する人たちのほうがマジョリティだった。だから昭和40年代卒の偉い先生でも、医学博士号を持ってない人が結構いるんです。ところが、私らが学生の頃から、「左に行くのは変なヤツ」という見られ方をするようになって、全共闘運動の反動じゃないかと思うんだけど、医局にしがみつく医者がすごく多くなった。

鳥集 一方で、反体制的な考えを持っていた医師たちは、こんな権威主義的なところにいられないって、大学を出て行ってしまった。

和田 そうです。もちろん反体制だった人でも、いい業績を残して他大学で教授になった人がいるんですが、東大医学部では教授にはなっていません。

東京大学病院 ©iStock.com

既成の概念をぶっ壊せ

鳥集 部外者から見ると、東大医学部を出た人は素直にすごいと思います。その人たちに対して社会が求めているのは、普通の人にはできないような仕事をして、社会に貢献してほしいということです。しかし、和田さんのお話を聞いていると、「現代は高齢社会だから、医局講座制の壁を越えて、高齢者医療の研究や体制をつくるべき」といった発想が、東大からは出てこない。

 実は東大には以前から老年病科があるので、高齢者医療には伝統があるはずです。高齢になると高血圧や糖尿病だけでなく、がん、心臓病、脳卒中、運動器障害、認知症、うつ病、睡眠障害なども増えますから、いろんな診療科の医師が協力しなくてはなりません。しかし、そのような動きは東大には見えませんね。

和田 そうです。老年病科みたいな中途半端な診療科をつくるよりは、高齢者医療センターをつくって、いろんなところから医師を集めてくるようなことをしないとダメなんです。ところが、ある時期から日本老年医学会が、日本内科学会の傘下におかれた。それまでは認知症を研究している精神科医も老年医学会に所属していたんですが、内科に支配されることになって、居場所がなくなった。

鳥集 本来はピラミッドが逆ですよね。老年医学の中に、内科も精神科もあるべきなのに。

和田 つまり、「老年医学」という発想から、「老年内科学」に変わってしまったんです。年を取るほど心の影響が大きくなるし、認知機能も落ちてくる。身体機能も含めて、高齢者を全人的に診るには色んなことを考えないといけないんだけど、日本というのは変な国で、臓器別の専門分化した診療科のほうが上に見られてしまう。たとえば総合診療とか、免疫学だとか、精神医学もそうですが、全人的に診る考え方は、なぜか学会では軽視される。

鳥集 東大医学部の人たちには、むしろ既成の概念をぶっこわしてほしいですよね。それができてないんだとしたら、すごく残念です。

#2に続く

東大医学部

和田 秀樹 ,鳥集 徹

ブックマン社

2020年9月16日 発売

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