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感染リスクの烙印を押され…国策だった「クルーズ船観光」は終わりを迎えるのか

『観光は滅びない 99.9%減からの復活が京都からはじまる』より #1

2020/11/03

 このダイヤモンド・プリンセス号は04年に三菱重工業長崎造船所で建造されたものであるが、当時は姉妹船「サファイア・プリンセス」と並んで日本で建造された客船としては史上最大だった。運航はアメリカのクルーズ会社「プリンセス・クルーズ号」によって行われ、日本発着クルーズを開始したのは2013年からである。

寄港地の憂鬱

 クルーズ船の誘致も、インバウンドを大量に運び込む手段として国が強力に推し進めてきた政策であり、LCCと並んでインバウンドブームの足を象徴する存在といえる。

 クルーズ船で乗り付けてやってくる乗客の数はたしかに数千単位であり、その威容は、間近で見ると圧倒されるほどである。しかし近年は中国人を中心とした利用客の拡大にともない、規模の巨大化と、頻繁な寄港がもたらす受け入れ地域での問題が世界的に表面化しており、それが寄港反対運動にまで発展している事例もある。

 そもそもこのようなクルーズ船の寄港に関しては、それが立ち寄る地域にとってみれば、得られる利益よりも提供しなくてはいけないインフラなどのコストが上回り、結果的に「赤字」になってしまう場合さえあるという問題が指摘されてきた。

※写真はイメージ ©️i.Stock.com

 通常、ある地域がそこに立ち寄る観光客にできるだけ多くのお金を落としてもらおうとするなら、何よりも彼らの滞在時間をどれだけ長くできるかが勝負となる。その地域で観光を楽しみ、お土産を買い、夕食をとり、そしてその地域の宿に泊まってもらうということである。

 逆にたとえ何千人、何万人という観光客が訪れようが、買い物も食事も宿泊もせずに通過されてしまうだけでは、その地域にとってはなんの利益にもならない。それどころか、彼らのためのインフラ整備や維持のためにかかる費用だけがかさみ続けるケースでさえめずらしくないのだ。

 このような問題は、たとえば大型バス・ツアーにとってちょうどよい「トイレ休憩スポット」に選ばれてしまった地域の悩みとして、以前から問題とされてきたものでもある。だからこそ現在ではさまざまな地域が、単に訪れた観光客の数を競うのではなく、できるだけひとつの地域に長くとどまってもらう滞在型観光を振興しようとしているのだ。

 そして、もちろんクルーズ船の寄港受け入れに際しても期待されることは同じである。「できるだけこの街でお金を落としてほしい」ということだ。しかし、ここで問題となるのは、多くの場合クルーズ船がひとつの街に滞在するのは、実はごく限られた時間でしかないということである。

※写真はイメージ ©️i.Stock.com

 クルーズ船の寄港時間は6~8時間程度であることが多く、さらに寄港地では出入国手続きが必要となるため乗下船ともに1時間半ほどを要する。結果的にクルーズ船の乗客たちが寄港地で観光を楽しむことができるのは、実質的に数時間足らずになってしまう。

 しかもクルーズ船自体が移動するホテルであるため、その乗客が寄港地の宿に泊まるわけではない。そしてディナーなどの食事ももともとの旅行代金に含まれているため、寄港地のレストランではなくクルーズ船でとる乗客が多い。