昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

去年の首位打者が「山賊打線」を捨てての送りバント

 文化の日の第2戦は接戦になった。僕はこの試合こそ両チームの差が出た試合だったと思う。ライオンズはバントをからめじわじわ逆転、中継ぎ&抑えで手堅く逃げ切った。うちは堀、玉井とベストのリリーフを出して、追いつかれ逆転されてしまう。本当ならリリーフの豊富さはうちのストロングポイントなのだ。そこでやられたら勝ちパターンがない。残念でしょうがないけれど、これがうちの弱さだ。スコアは4対5、勝ちは森脇、負けは玉井に付いた。

文化の日の第2戦はデーゲーム。ドームになる前の西武球場では、こんな秋晴れのなか、日本シリーズが開催されたものだった。 ©えのきどいちろう

 この試合のこれぞ野球って場面を描写しておきたい。6回裏、スコア4対3でファイターズがリードしていた。先頭の栗山がヒットで出た。マウンドには堀瑞輝。迎えるバッターは5番森友哉だ。場内に「ベイビーシャーク」が鳴り響く。1万1千超の観衆は手拍子。

 森は自己判断でバントするのだ。まずこの判断。「引っ張って進塁打」でもなく、送りバントだ。去年の首位打者が「山賊打線」を捨ててかかっている。ここにしびれた。

 堀が投じたのはスライダーだったと思う。大きく弧を描いてストライクゾーンへ。森はバントで合わせるが、うまくいかなかった。ボールはファウルラインを切れかかり、森は一瞬、足を緩めている。が、ラインのところに土の塊(かたまり)みたいなもんがあったんだね。スパイクで赤土が掘られて、それがまとまった塊になっていた。ボールは切れかかり、その塊に当たってフェアゾーンに戻ってくる。珍しいバントのイレギュラーだ。森は送りバント成功。

 1死2塁で今度は6番中村剛也。5球目でキャッチャーフライを打ち上げた。これを宇佐見が見失ってしまう。ポカンとした表情で宙を見上げる宇佐見の真後ろにボールはポトリと落ちてくる。ファウル。中村はその後の打ち直しでレフト前へどん詰まりのヒット。1死1、3塁となって、スパンジェンバーグの同点犠飛だ。僕は開いた口がふさがらない。野球すげぇ。福本伸行『カイジ』なら「ざわ…ざわ…」ってところだ。

 僕は11月5日未明にこれを書いているからパ・リーグCS争いの行方を知らない。もしかするとロッテが盛り返すかもしれない。ソフトバンクと大差がついた2着争いだけど、こんなにスパークするならCSを設けた甲斐がある。

 どうなるかわからないけれど、ひとつ記しておきたいことがある。3日放送終了後の文化放送ブースだ。「ちょっと顔を出しましょう」と関係者氏に言われて、ついて行った。細かい話を言うとHBCラジオ用の裏送りだった。実況の高橋将市アナやスタッフは文化放送だけど、文化放送では放送されない。解説者もファイターズOBの田中幸雄さん。

(文化放送制作の)第2戦・HBCラジオ中継ブース。解説・田中幸雄さん、実況・高橋将市アナ。陣中見舞いですね。 ©えのきどいちろう

 だけど、そこは紛(まご)うかたなきライオンズナイターのブースだったんだ。田中幸雄さんがお帰りになってから、文化のスタッフは「同率2位」に興奮し、しばらく立ち話だよ。そして、今年2月に急逝した仲間、松島茂アナの名を言う。

「松島を日本シリーズに連れていこう!」

 俺、敵なんだよ。勘弁してくれよ。今さっき1点差で負けたんだよ。なのに泣けた。ロッテも頑張ってほしいけどさ、西武も頑張れよ。言いたいのはそれだけだよ。

試合後の文化放送スタッフ。「松島を日本シリーズに連れていこう!」オレ、マジ泣きしました。 ©えのきどいちろう

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2020」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/41267 でHITボタンを押してください。

この記事の写真(6枚)

HIT!

この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春野球をフォロー