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味噌スープのオール発酵食品「キムチ納豆ラーメン」誕生秘話

――それで名物のキムチ納豆……

「まだまだ! 最初は俺の出身、大迫(現・花巻市)の名物、田舎の手打ちそばさ。けど店出して1年。売れないし家賃は高い。苦しかったけどやめようとは思わねえよ。

「卒業式」を前に、大信田氏みずから厨房に立つ日々が続く

 ある日、俺の働いてた総菜屋の内田八兵衛さんて旦那。俺のお師匠さんはえらいグルメな人でな。メシに呼ばれた時に『大信田くん、今日納豆汁にするから納豆すって頂戴』という。すり鉢ですった納豆を味噌汁の中に入れて、豆腐を切ってねぎをぱっと放てばご馳走だ。『これは北国のお客さんを迎える歓迎の意味を込めて料亭で出す味なんだよ』と教わってな。

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 店も暇だし『この味をみんなに味わってもらいてえな』って、その時は蕎麦よりラーメンの方が出てたから、納豆ラーメンを出した。それをおかみさんが賄っているうちに『おとう、これうまいんでねぇが』って偶然重なったのが、当時店で出してた味噌ラーメン+納豆ラーメン+キムチ。で『キムチ納豆ラーメン』ができたんだ」

券売機にはみそ味、塩味、醤油味、そして「みそ納豆味」の文字(筆者撮影)

―――すべて発酵食品というなるべくしてなった偶然の産物。会長は「一生一品」というスローガンを掲げられていることも、そういう経緯があってのことなんですね。

「“想いを込めた一杯は、きっとお客様の心に響く”ってな。そっから自然にお客さんに浸透して、東京の人が『盛岡へ行ったらラーメン何食べる』『キムチ納豆!』って言ってくれてんだってから、ありがたくてさぁ~。

 他にもっと美味しい、素晴らしいラーメンはあると思うんだけど、“味は人の心”じゃねぇが、やっぱ親しみっつうか、人間の真心だかが、お客さんくすぐるんじゃねえか。あとはアイデア力だな」

――名物の「キムチ納豆」を柱にして、メニューには人気ナンバー2の焼肉、岩手山、早池峰、不来方など、岩手県各地の地名を冠したラーメンがあり、その他にも期間限定で「アルペンラーメン」「稀勢の里」「イチローラーメン」や近所の鎌田内科クリニックのお医者さまと共同開発した「町医者シリーズ」なんてのもあるそうですね。

数々あった限定ラーメンの集大成「閉店ラーメン」(筆者撮影)

「これまで作ったのは100以上あるんでねぇかな。今も『限定はないのか、限定はないのか』言われんから『閉店ラーメン』っての出してる。朝ジョギングしてると、パッと思いつくのよ。やっぱセンスじゃねえの。俺の先祖は長崎で金山掘ってたらしくてな。ポルトガルの血がどっかに流れてるだろうから、なんだかセンスも湧くんだよな」

――センス。

「そう。この店のデザインも、食器に南部鉄器つかったりしてんのも、全部俺のセンス。やっぱ長崎だし。今も『鬼滅の刃ラーメン』試作しとってな。すぐ世相の話題性を重んじるのは、やっぱポルトガルだなぁ。80になる爺さまには真似できんて」

――アイデアも体力もまだまだ現役ということで、本店は閉店してもまだこの先、店の厨房には立たれるのですか?