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自分の欲望や衝動を、我慢できない

 例えば、宿題をさぼってばかりいたら、親にも教師にも叱られます。友人同士の関係においても、自分のやりたいことばかりを主張していると仲間外れにされてしまう。そうしたことを経験して、人は「嫌なことでも必要があればしなければいけない」とか「自分の欲望や衝動を、ある場合には我慢しなければならない」ということを学んでいきます。そして、成長するにつれ、徐々に「快感原則」から「現実原則」へと行動を置き換えていくのです。

事故現場となった東京・千駄ヶ谷の路上 ©文藝春秋

 ここでいう「現実原則」とは、今は仮に不快に耐えることになったとしても、長期的に見れば、より不快を少なくして、快を多くすることになる行動を求める、人間のもう1つの原則のことです。先の勉強の例でいえば、今は面倒くさくても、ここで宿題を終わらせておけば、親にも先生にも怒られないし、あとで自分の好きなテレビ番組を見ることができる。だから、今宿題を終わらせてしまおうと考えることです。

「快感原則」の命じるまま逃げてしまった

 今回の伊藤さんが起こした「ひき逃げ」事件は、この2つの原則を軸に考えると非常に分かりやすい。今回のような交通事故であれば、伊藤さんにはまず、接触事故でけがをしてしまった被害者を助ける義務が生じます。また、警察や救急車を呼んで、警察からの事情聴取も受けなくてはいけない。しかし、これらの行動は短期的に見れば非常に面倒くさい、つまり不快なことに当てはまります。

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 さらに芸能人である伊藤さんは、事故を起こしたことが報道されれば、今後の仕事にも影響がでるでしょうし、世間からもバッシングを受ける可能性があります。こういう「不快なこと」が事故を起こした直後、伊藤さんの頭の中に一瞬で浮かんだことでしょう。そして、伊藤さんはここで「快感原則」の命じるまま、自分にとって不快なことを避けたい一心で、その場から逃げてしまったのではないでしょうか。

釈放され、報道陣の前で謝罪の言葉を述べる伊藤 Ⓒ文藝春秋

 もし彼が「現実原則」へと行動を置き換えていくことができる大人だったら、「いや、でも待て。もしここで逃げたら、もっと大変なことが起きてしまう」と冷静に判断することができたでしょう。