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Aマッソ加納愛子「“お笑い番組が少ない”は言い訳にしかならない時代がきた」

『イルカも泳ぐわい。』より

2020/11/17

source : 文藝春秋 digital

genre : エンタメ, 芸能, 読書, ライフスタイル

note

「ちょっと! 売れたなら、もっと楽しそうにしてくださいよ!」

 これだ。これにはとにかく閉口する。出たい、と思ったことがなかったからである。しかしキャスティングする側からすれば当たり前の質問であり、何をやりたいのかはハッキリと明示してもらわないと困る。でもこちらとしては、適当な番組名を言うことの不誠実をなかなか振りかざすことができないもので、とても歯切れが悪いとはわかりながらも「うーん、そうですねぇ」となってしまい、毎回なんとも言えない顔をさせてしまうのだ。やりたい番組ならあるんですが……というところまでは、ペーペーは到底いけない。

2020年10月に初の冠ラジオ「Aマッソの両A面」(MBS)がスタート ©大村祐里子

 数年前に、売れた先輩とまだ売れていない先輩と私の3人で、食事に行ったことがあった。売れた先輩が仕事での苦労を話した後、売れていない先輩が不満そうに「ちょっと! 売れたなら、もっと楽しそうにしてくださいよ!」と言った。売れることだけを目標にしている身からすれば、売れても辛いという現実は受け入れ難く、その言葉はとても切実だった。「色々あるんだよ」と漏らした売れた先輩の言葉も、私には「思っていたのとちゃうかった」と言っているように聞こえた。私はどちらの気持ちにも寄り添い切れず、目の前にあった、売れていない芸人なら誰でも大好きな唐揚げが、手をつけられることなく冷めていくのを眺めていた。唐揚げは、頼まないか、ばくばく食うか、二択でないとあかんよなぁ、と漠然と思っていた。

 それにつけても、媒体はネットを中心に広がっていくばかりだ。お笑い番組が少なくてやりたいことをやれない、は言い訳にしかならない時代がきた。テレビで見てきたものと、これから表現していくものは、どんどん異なってくるかもしれない。何を指針に、どのフィールドで、いかようにして。2W1H。

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 楽しく売れることを目指すことは、良くないことだろうか。

イルカも泳ぐわい。

加納 愛子

筑摩書房

2020年11月18日 発売

Aマッソ加納愛子「“お笑い番組が少ない”は言い訳にしかならない時代がきた」

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