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絵本特有の「余白」のもつ魅力

 これまでも村上春樹のような小説家、谷川俊太郎のような詩人、松本大洋や西原理恵子のようなマンガ家、他ジャンルの第一人者が絵本というフォーマットを自らの表現の一手段として選んできた。

©文藝春秋

 マンガ雑誌の編集経験もある門野氏は、同じ文字と絵で構成される絵本とマンガの違いをこう説明してくれた。

「マンガというのは、すべての出来事を説明しながら話が進んでいくものです。バトルシーンがあったとして、『構えて殴りました。その次の瞬間、負けました』になっていたら、やっぱり盛り上がらないし、楽しくない。マンガはその過程を描く。

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 でも、絵本なら『にらみ合って、ケンカしているシーンがあって、次にもう結果が出ている』ぐらいのリズムになる。それ以外は想像してください、というスタイル。文字で多少の補足があるぐらいだと思います。

 限られた絵と限られたテキストで表現するので、その周りにすごくたくさんの余白があるんです。その余白の部分をどう見せられるか。読者が勝手にどう想像するかというのが絵本特有の面白さであるなと思います」

 そして、その“余白”が現代人の心に響いた部分もあるように思える。

絵本の魅力は「想像力をかきたてること」 ©文藝春秋

情報をあえて“そぎ落とす”絵本のスタイル

 スマホにはひっきりなしに通知が届き、1つのコンテンツを消費したと思ったら即座に次のおすすめが提示される。ワンクリックすれば、欲しい商品はその日のうちに届くような便利な世の中。

 一方で個人の時間があらゆるコンテンツに食い散らかされ、求めずとも情報が濁流となって押し寄せてくる時代でもある。

 だからこそ情報をそぎ落とす絵本の余白は防波堤になる。想像力がかきけされそうなときに、想像力をかきたてるツールとなる――。絵本を読む大人たちはそんなところにも惹かれるのかもしれない。