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「赤ちゃんあっせん事件」の道のりをたどる

 傲慢と受け取られかねないこともあった。ゆりかごに託された子どもたちができるだけ家庭的な環境で養育されることを願って、蓮田氏は特別養子縁組にも積極的に取り組んだが、乳児院や児童養護施設より家庭的な環境で育つ方がいいと公的な場で発言し、ゆりかごに預けられた赤ちゃんの養育に携わる地元の施設関係者の反発を招いた。

「父には唯我独尊的なところがありました。反対する人たちがいても、何を言ってるんだ、命が助かればいいじゃないか、とちょっと乱暴かなと思うような言い方をすることもありました。でも、それくらい図太くないと、繊細な性格ではとてももちこたえられなかったと思います」(健氏)

献花のために並ぶ人たち。1360人が献花に訪れた

 今年3月、健氏は仙台に菊田昇氏の遺族を訪ねた。菊田氏は、望まない妊娠をした女性に中絶せず出産するよう説得し、生まれてきた赤ちゃんを妊娠できない夫婦にあっせんしていたとして問題になった「赤ちゃんあっせん事件」を起こした産婦人科医だ。菊田氏はのちに特別養子縁組の成立の道筋をつくった。

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 大切なのは法令遵守か、それとも命か。当時の世論は真っ二つに割れた。菊田氏は「賛成ばかりではダメなんだ。世の中が反対するようなことだから世に問う意味がある」と反対派を歓迎し、議論に挑んだという。

「まさにゆりかごも同じなんです。菊田先生と我々は同じ道を辿っていると思います」

慈恵病院の脇につくられている「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」

 菊田氏の堂々たる姿勢に励まされる思いがしたと健氏は話した。

 2018年5月、慈恵病院は孤立出産を防ぐための策として「内密出産」への取り組みを発表した。

 母親が身元を隠して病院で出産する内密出産であれば、母子の安全が守られると同時に、子どもの出自を知る権利も担保される。

 健氏のこの決断を蓮田氏は喜んだ。一方の熊本市は厚生労働省に内密出産の違法性の有無を確認し、今年9月、慈恵病院に対し、法整備が整わないことを理由に内密出産の自粛を要請する通達を出した。対する慈恵病院は、2週間後、熊本市に公開質問状を提出。二者間の溝は深い。

 そんななか、10月25日、創設者の蓮田氏が84歳で旅立った。

 双方に折り合いを見せる気配は現在のところ見えない。ゆりかごの第2章は厳しい船出となった。

編集部注:文中に「蓮田太二氏の母方の実家は浄土真宗の寺」という旨の記述がありましたが、「父方の実家」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。(11/10)