赤ちゃんの命を救うのか。それとも、子捨てを助長するのか。
賛成派と反対派の意見が分かれ、法整備は進まないまま今年で13年を迎えた。熊本市の慈恵病院が運用する「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」だ。自分で赤ちゃんを育てられない人が匿名で赤ちゃんを預け入れることができる。ゆりかごの目印は病院の建物の脇の生垣に立つ小さな門だ。赤ちゃんを連れた親はこの門を通って15メートルほどの小径を進み、建物の壁にとりつけられたゆりかごの扉を開け、ベッドに赤ちゃんを横たえて扉を閉める。あとは立ち去るだけだ。事前の連絡や予約は要らない。
「こうのとりのゆりかご」の今
ゆりかごを開設した当初、病院側は親との接触に積極的ではなかったが、近年は熊本市からの要請もあり、ゆりかごの扉から表に出る門までの敷地内に限っては親に声をかけている。職員の声がけを振り切るように早足で門の外へ去る女性もいるが、預け入れたものの(ゆりかごの扉は一度閉めると外からは開くことができない)立ち去るのをためらう女性も少なくない。慈恵病院では、そうした女性には、相手が了承すれば、別室でここに来た経緯を聞き取っている。赤ちゃんが預けられると慈恵病院には警察と児童相談所に通報する義務があるため、程なく警察と児相の職員が駆けつける。ほとんどの場合事件性はなく警察は確認のみで去るが、ゆりかごに預けられた赤ちゃんは熊本市の児相の保護下に置かれるため、児相職員は同席し、女性から情報を聞き取ろうとする。女性が身元を明かせば、児相は女性の居住地の自治体の児相に連絡し、後日、赤ちゃんは連絡した先の児相の保護下に移される。身元について話さない場合、赤ちゃんは熊本県下の乳児院で育つことになる。
ゆりかごは慈恵病院理事長の蓮田太二氏が、出産した赤ちゃんを親が殺害する事件が立て続けに起きたことに胸を痛め、ドイツで先行していた取り組みを参考に始めたものだ。
「赤ちゃんの命を救う」という蓮田氏の主張に対し、反対派の主だった理由は次の2つだ。1つめは、赤ちゃんをゆりかごに預け入れた場合、道端や公園などに放置するのと違い、親は保護責任者遺棄罪に問われないため、安易な子捨てを助長するのではないかという懸念が反対派には根強いこと。そして2つめは、匿名でゆりかごに預け入れられることによって、子どもが出自(自分は誰から生まれたのか)を知る権利を守られない可能性があることだ。