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「赤ちゃんポスト」は誰を救うのか――“ゆりかご”に子どもを預ける親の共通点

2020/08/27
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【ケース2】望まない妊娠から、母娘関係が好転した学生

 慈恵病院で出産した未成年の大学生。幼少期から両親が兄弟ばかりをかわいがる、学校でいじめられているのに親に助けてもらえないなど、親に理解されない寂しさがあった。大学進学後、相手のわからない妊娠をし、親に相談できないまま中絶が可能な時期が過ぎ、慈恵病院に一人で来院。その後、32週で切迫早産となり入院した。サラリーマンの父とパート勤めの母に兄弟との4人家族で資産もある、一見問題のない家庭だが、女性には親に大切にしてもらっていないという思いが強かった。

 当初、この学生は胎内の赤ちゃんに対して異物感しかなかった。

「赤ちゃんには死んでしまってほしいと思っていたようです。自分では育てられないとのことだったので、当院で特別養子縁組の手続きを進めることにしました。養親さんが赤ちゃんとの生活を心待ちにしていること、赤ちゃんは養親さんを幸せにし、赤ちゃんも大切に育てられて幸せになれることなどを、折をみて話し続けました。すると、徐々に出産に対して前向きに変化し始めて、最後の方は赤ちゃんを少しでも大きく産んで養親さんに2500グラム以上で託したいという思いで、陣痛でお腹が痛む最中にも一生懸命ごはんを食べようとしていました」

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「こうのとりのゆりかご」のドア ©️三宅玲子

 一方、大学生の母親は、娘が切迫早産で入院したと聞いて駆けつけると、ナースステーションの前で「あんな娘、うちの子じゃない」と取り乱して叫んだ。だが、相談員が母親に対しても特別養子縁組の説明をし、母親の怒りを受け止めるうちに、母は涙を流し、ワンマンな夫の精神的な暴力に痛めつけられていたことを話した。そのうちに毎日娘の病室に面会に通うようになり、出産時は陣痛室で娘の背中をさすり励ました。

 真琴さんによると、望まない妊娠がきっかけでこのように親子関係が好転することもある。

「ゆりかごに預けにくる人たちを見ていると、親との関わりが大きく影響しているところがあります。彼女たちの目に映る親の姿を聞いていると、目に見えないところで子どもに親の思いを押しつけていなかったか、母親として反省することもあります。また、親の思いを子どもに言葉で伝えることを怠ってはいけないと気づかされます」