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「赤ちゃんポスト」は誰を救うのか――“ゆりかご”に子どもを預ける親の共通点

2020/08/27
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【ケース3】自殺未遂から、人生を立て直した22歳

 22歳の女性は、親との折り合いが悪く大学を強制的に中退させられ、家からも出された。その日暮らしで自暴自棄になっていた時期に妊娠し、自殺を試みるがうまくいかず、選択肢がないまま破水した状態で慈恵病院を訪れた。慈恵病院ではこうした未受診のまま出産に訪れる女性やゆりかごにたどり着いた女性には必ず「きてくれてありがとう」とねぎらいの言葉をかける。女性はここで追い払われたら死のうと思っていたが、あたたかく受け入れられ、無事に出産。慈恵病院の仲介により特別養子縁組を行った。手記に出産後の感慨をこう記している。

〈(前部略)こんな私から生まれてきてくれて、もう終わりだ、やっと人生にピリオドが打てると思っていたのに、気がついたら人生のスタートラインに立たせてくれていたんです。(中略)一人で川辺で立ち尽くしていたことも、勇気が出ずに病院の回りをグルグルしたことも、全て良かったんだ、産んで良かったんだと心から思えました。私まで幸せにしていただきました〉

 受け入れがたい妊娠だったとしても、出産を肯定的にとらえ直すことがその後の人生を立て直すきっかけになることもある。

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病院外観 ©️三宅玲子

 ゆりかごにたどり着く女性たちの背景にはなんらかの形で「子ども時代に尊重されなかった」という共通の経験がある。ゆりかごは、女性たちの生育歴が個人の体験にとどまらず、社会の歪みを表していることを指し示す。それは個別の家庭内の問題であると同時に、家庭で受け止めきれない場合に社会的養護で支えることができていたかということでもある。

 この3年で病院が話を聞くことができた16人の母親たちの生育歴と本人の状態からは、幼少期に育児放棄を受けた影響で解離性障害が疑われたケースをはじめ、7割に精神疾患や発達障害との関連の疑いが持たれたという。